「経営はギャンブルみたいなものだ」という言葉を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
たしかに、似ているところはあります。先のことは誰にもわかりません。決断には必ずお金がかかります。うまくいく日もあれば、どう考えても正しかったはずの判断が空振りする日もあります。
ただし、決定的に違う点があります。経営は、席を立てないギャンブルだということです。
カジノなら、負けが込んだところで「今日はここまで」と帰ることができます。しかし経営は、負けた翌日もシャッターを開けなければなりません。従業員の給与日は、こちらの都合を待ってくれません。
だからこそ、経営には「勝ち方」より先に「負けない方法」が必要になります。この記事では、その方法として計画とPDCAを取り上げ、なぜ「回す速さ」が勝率を左右するのかを、なるべく専門用語を使わずに説明していきます。
「経営はギャンブル」は、どこまで正しいのか
まず、この言葉の当たっている部分を認めておきます。
- 結果が確率的である(同じことをしても、毎回同じ結果にはならない)
- 賭け金が必要である(人を雇う、仕入れる、広告を出す。すべて先にお金が出ていく)
- 情報が不完全である(お客様の気持ちも、競合の次の一手も、完全にはわからない)
この3つは、たしかにギャンブルとよく似ています。「絶対に儲かる商売」が存在しない以上、経営から不確実性がゼロになることはありません。
ここまでは、多くの方が納得されるところだと思います。問題は、この先です。
ギャンブルと経営が、決定的に違う3つのこと
1. 途中で降りられない
先ほど触れたとおりです。経営には「見送り」がありません。何もしないという選択すら、実は「現状維持に賭ける」という一つの賭けになっています。
2. 確率を、自分で動かせる
ルーレットの赤が出る確率は、どんなに念じても変わりません。台の前で腕を組んで唸っても、赤は増えません。
一方、商売の成功確率は変えられます。接客を変える、商品の見せ方を変える、価格を変える。打ち手によって、勝つ確率そのものを動かせます。ここが最大の違いです。
3. 同じ勝負を、何度でも試せる
ギャンブルは、1回ごとに結果が独立しています。100回やっても、101回目が上手になることはありません。
しかし経営は違います。10回試せば、11回目の精度は確実に上がります。経営とは、練習が結果に反映される、きわめて珍しい賭け事なのです。
つまり経営は、「運任せのギャンブル」ではなく、「腕前が効くギャンブル」です。そして腕前を上げる方法が、計画とPDCAです。
計画は「未来を当てるため」のものではありません
「計画を立てても、どうせそのとおりにはならない」
これはまったくそのとおりです。計画は外れます。むしろ、外れるのが前提です。
では、なぜ計画を立てるのか。計画の本当の価値は、「外れたことに早く気づける」点にあります。
計画がない状態で業績が悪くなると、「なんとなく最近よくない気がする」で終わってしまいます。何が、いつから、どれくらいずれているのかがわからないので、打つ手も「とりあえず頑張る」になります。
計画があれば、「3か月目で、想定より客数が15人少ない」とわかります。ずれの正体がわかれば、手の打ちようが出てきます。計画とは、未来を言い当てる予言書ではなく、ずれを測るための物差しなのです。
計画に最低限書いておきたい3つのこと
立派な事業計画書である必要はありません。A4用紙1枚でも、次の3つが書いてあれば十分に機能します。
- 目指す数字 ― いつまでに、何を、どれだけ。
- その数字が成り立つ前提 ― 例えば「売上=客数 × 単価 × 来店頻度」のように分解しておきます。
- 前提が崩れたときの判断基準 ― どうなったら、やめる・変えるのか。
特に3つ目が抜けがちです。撤退ラインを決めていないと、「ここでやめたら、今までかけたお金が無駄になる」という気持ちが判断を曇らせます。
ギャンブルで一番危険なのは、負けている最中に「取り返そう」と思った瞬間だと言われます。経営でも同じです。冷静なときに決めたルールだけが、熱くなった自分を止めてくれます。
PDCAは「速さ」で効きが変わります
PDCAとは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(確認)→ Action(改善)の4段階を繰り返す考え方です。言葉としてはご存じの方も多いと思います。
ここで注目していただきたいのは、「1周にどれくらいかかるか」です。
- 1年に1周する会社 → 3年で3回の経験
- 1か月に1周する会社 → 3年で36回の経験
3年後、この2社の間には12倍の差がついています。しかも36回まわした側は、失敗の内容も、お客様の反応も、うまくいく条件も知っています。持っている情報の量がまるで違います。
ただし、正直に申し上げておきます。「回数を増やせば必ず勝てる」わけではありません。
ギャンブルでは、回数を増やすほど理論上は負けが確定していきます。胴元が有利にできているからです。それでも経営で回数を増やすと強くなるのは、1周ごとに手の内を改善しているからにほかなりません。同じやり方を高速で繰り返すだけなら、それはただの空回りです。
PDCAが1周目で止まってしまう理由
多くの会社で、PDCAは1周目の途中で力尽きます。よくあるのは次の4つです。
- Pが壮大すぎる ― 計画づくりに3か月かかり、完成した頃には状況が変わっている。
- Dで満足してしまう ― 忙しく動いたので、やり切った気持ちになる。
- Cをしない ― 数字を見ていない。あるいは、見るのが少し怖い。
- Aが反省会になる ― 「誰が悪かったのか」を話し合って解散する。
念のため申し添えますと、CはCheck(確認)のCであって、Critic(批判)のCではありません。犯人探しをしても、来月の売上は1円も増えません。
たとえば、ある小さなお弁当店で考えてみます
ここからは、わかりやすくするために架空のお店で考えてみます。実在のお店ではなく、あくまで考え方を説明するための例としてお読みください。
駅の近くにある、家族経営のお弁当店。ここ数か月、売上が少しずつ下がっています。
計画がない場合
社長は「景気が悪いからだ」と考え、2万円かけてチラシを配ることにしました。配布後、お店はなんとなく忙しくなりました。しかし翌月、売上はほぼ横ばい。社長は「チラシは効かない」と結論づけます。
ここで残ったものは何でしょうか。2万円が出ていき、「チラシは効かないらしい」という、根拠のあいまいな思い込みが1つ増えただけです。
計画とPDCAがある場合
同じ状況で、まず数字を分解してみます。
売上 = 1日の客数 × 平均単価 × 営業日数
調べてみると、客数はほとんど減っていませんでした。減っていたのは平均単価です。以前はお弁当と一緒に汁物を買っていたお客様が、お弁当だけを買って帰るようになっていたのです。
ここから、次のように進めます。
- Plan ― 「レジで一言おすすめすれば、平均単価が50円上がるのではないか」と仮説を立てる。期間は2週間、費用は0円。
- Do ― 会計時に「温かいお味噌汁もいかがですか」と全員が必ず声をかける。
- Check ― 2週間後、平均単価を前の2週間と比べる。
- Action ― 上がっていれば、声かけを店のやり方として定着させる。上がらなければ、「弁当+味噌汁のセット価格」など別の手を試す。
ここで大事なのは、お味噌汁の声かけが正解だったかどうかではありません。このお店が「2週間ごとに次の一手を試せる状態」になったことです。
チラシに2万円と1か月を使う間に、この方法なら費用をかけずに2回試せます。1年間では、24回の試行と24回分の学びが手元に残ります。これが、冒頭で申し上げた「腕前が効く」ということの中身です。
回転数を上げるための、管理のコツ
PDCAを速く回すために、特別な仕組みは要りません。次の4つで十分に動き始めます。
1. 1周の期間を、先に決めてしまう
「うまくいったら振り返る」ではなく、「2週間後の金曜に振り返る」と先に決めます。終わりの日が決まっていない取り組みは、たいてい終わりません。
2. 見る数字を1つか2つに絞る
管理画面に指標を30個並べても、人は見ません。「今月は平均単価だけ見る」で構いません。数字は、見られて初めて意味を持ちます。
3. 振り返りの予定を、カレンダーに入れる
意志の力ではなく、予定表に守ってもらいます。人は「時間ができたらやろう」と思ったことを、ほぼ確実にやりません。
4. 3行でいいので記録を残す
「やったこと」「結果」「次にやること」。この3行を残すだけで構いません。
人の記憶は、驚くほど都合よく書き換わります。半年後には、失敗したはずの施策が「あれは悪くなかった」に変わっていることすらあります。記録は、過去の自分からの正直な報告書です。積み重なれば、その会社だけの財産になります。
それでも、回しても勝てないときがあります
最後に、注意点を正直にお伝えしておきます。
PDCAを回せば必ずうまくいく、という話ではありません。 特に次の2つには気をつけてください。
- 向きが間違っている場合 ― 市場そのものが縮小しているときに、売り方の改善だけを高速で繰り返しても届きません。全力疾走していても、壁に向かって走っていれば、壁に着くのが早くなるだけです。この場合はPそのものを見直す必要があります。
- 現場が疲れてしまう場合 ― 改善のための作業が増えすぎて、本業を圧迫することがあります。同時に走らせる取り組みは、1つか2つにとどめるのが現実的です。
また、ここで述べたことはあくまで一般的な考え方です。業種、規模、資金繰りの状況によって、適切な周期も、見るべき数字も変わります。手元の現金が細っているときは、改善よりも先に資金繰りの手当てが必要になることもあります。自社の状況に当てはめる際は、そこだけご注意ください。
まとめ:勝ち続けている人は、運がいい人ではありません
経営から運の要素がなくなることはありません。それでも、計画と検証を重ねることで、運に頼る割合を減らしていくことはできます。
そして「負けない」とは、毎回大勝ちし続けることではありません。致命傷を避けながら、試行を続けられる状態にとどまり続けることです。ゲームの席に残っている人だけが、次のチャンスに賭けることができます。
もし今日から何か1つ始めるとしたら、難しいことは必要ありません。
- 今月、気にする数字を1つだけ決める
- その数字を動かしそうな手を1つ試す
- 2週間後の振り返りを、いまカレンダーに入れる
これで、1周目が始まります。1周目が終わったとき、あなたの会社は、何もしなかった会社より確実に1つ賢くなっています。
経営がギャンブルだとしても、こちらには回数を重ねるほど腕が上がるという、途方もない特権があります。使わない手はありません。

ミタスサポート事務所代表。富山県で中小企業向けに経営とIT支援を行っています。
中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。
小さな事業者向けに小回りの利くITサービスやサイバーセキュリティ対策に力を注いでいます。

