「システムを業務に合わせる」のをやめてみませんか?

新しいシステムやアプリを導入したとき、こんな声をよく耳にします。

「うちのやり方と合わない」 「前のほうが使いやすかった」 「結局、今までどおりエクセルで管理することにした」

お気持ちはとてもよくわかります。長年慣れ親しんだ進め方を変えるのは、誰にとってもストレスだからです。けれども、その「使いにくい」という感覚の正体を一度立ち止まって考えてみると、少し違う景色が見えてくることがあります。

本日は、業務改善の現場でよく出てくる「システムを業務に合わせるのか、それとも業務をシステムに合わせるのか」というテーマについて、できるだけかみくだいてお話ししてみたいと思います。

「業務にシステムを合わせる」とどうなるのか

まず前提として、多くの方は「自分たちの仕事のやり方は正しい。だから、システムのほうをこちらに合わせるべきだ」と自然に考えます。これはごく当たり前の感覚です。

そこで、新しいシステムを導入するときに「うちはこういう手順だから、ここをこう変えてほしい」「この項目を追加してほしい」「この画面の順番を入れ替えてほしい」と、たくさんのカスタマイズ(作り変え)を依頼することになります。

ところが、これを突き詰めていくと、いくつかの困った副作用が出てきます。

一つ目は、費用がふくらむことです。作り変えにはお金も時間もかかります。

二つ目は、もろくなることです。あちこちを独自に作り変えたシステムは、まるで増築をくり返した温泉旅館のようになります。風情はあるのですが、どこをどう直せばよいのか、もはや本人たちにもわからなくなってしまうのです。

三つ目は、せっかくの「お手本」を捨ててしまうことです。世の中に売られているシステムの多くは、たくさんの会社のやり方を研究して「だいたいこうすればうまくいく」という型が、あらかじめ組み込まれています。それを自分たち専用に作り変えてしまうと、その貴重なお手本を自ら手放すことになりかねません。

発想を逆にしてみる

そこで提案したいのが、発想を逆にしてみることです。つまり、「システムを自分たちに合わせる」のではなく、「自分たちのやり方を、システムが想定している形に合わせてみる」という考え方です。

これは「自分たちのこだわりを捨てて、機械の言いなりになれ」という意味では決してありません。そうではなく、「長年なんとなく続けてきたやり方の中に、実はもう必要のない手順が混ざっていないか、これを機に見直してみませんか」というお誘いなのです。

新しい家具を買ったときに、部屋の模様替えをするようなものだとお考えください。冷蔵庫の置き場所に合わせて、それまで「なんとなく」そこにあっただけの古い棚を手放す。すると、部屋全体がかえって使いやすくなる。これに似ています。

具体例:経費の精算で考えてみる

少しイメージしやすいように、どの会社にもありそうな「経費精算」を例にとってみます。

ある会社では、長いあいだ次のような手順で経費を精算していたとします。紙の申請書に手書きで記入し、上司のハンコをもらい、経理の担当者がその内容を改めてパソコンに打ち込み、最後に紙のファイルにとじて保管する、という流れです。

ここに、申請から承認、記録までを一気通貫でおこなえる新しいシステムを導入することになりました。このシステムは、申請者がスマートフォンで領収書を撮影すると、金額が自動で読み取られ、上司はその場で承認ボタンを押すだけ、という設計になっています。

さて、ここで二つの道に分かれます。

一つ目の道は、「いや、うちはハンコ文化だから、画面上にもハンコのマークを押せるようにしてほしい」「経理が手で打ち直す欄もこれまでどおり残してほしい」と、昔の手順をそのままシステムの中に再現しようとする道です。これはまさに「システムを業務に合わせる」やり方で、結局のところ手間はほとんど減りません。

二つ目の道は、「せっかくスマホで撮るだけで済むのだから、手書きの申請書はやめよう」「自動で読み取れるなら、打ち直す作業もまるごとなくそう」と、システムが得意とする形に自分たちの手順を寄せていく道です。こちらが「業務をシステムに合わせる」やり方です。

どちらが楽になりそうか。おそらく答えは明らかではないでしょうか。

とはいえ、何でもかんでも合わせればよいわけではありません

ここまで読んで、「なるほど、では全部システムに合わせればいいのだな」と思われたかもしれませんが、少しだけ注意も必要です。

その会社ならではの「強み」になっている独自のやり方まで、無理に標準の型に押し込めてしまうと、せっかくの個性が消えてしまうことがあります。

ですから、見直しのときには一度すべての手順を机の上に並べてみて、「これは私たちの強みだから残す」「これは単に昔の名残だから手放す」と、一つずつ仕分けをしていくことが大切です。

このとき、注意すべき相手がいます。それは「誰も中身がわからないのに、なぜか毎月きちんと動いている、伝説のエクセルファイル」です。担当の方いわく「これは私が辞めても触らないでください」。いわば、触らぬマクロに祟りなし、というわけです。こうした「ご神体」のような存在こそ、勇気を出して中身を確かめてみる価値があります。案外、中を開けてみたら大したことはしていなかった、ということも少なくないのです。

おわりに

システムというと、どうしても「使いこなさなければならない、ちょっと面倒な道具」という印象を持たれがちです。けれども見方を変えれば、システムは「世の中のうまくいっているやり方を、あらかじめ詰め込んでくれている便利な型紙」でもあります。

その型紙に自分たちのやり方をそっと重ねてみて、はみ出した部分だけを見直してみる。これが、遠回りに見えて実は一番の近道になることがあります。

新しいシステムを前にして「合わない」と感じたときは、システムを責める前に、ほんの少しだけ「合わせてみる」という選択肢も、ぜひ思い出していただけたら幸いです。

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