守破離の「守」は、生成AIに任せていい。改善が始まるのは、データが貯まってからです

「基本が大事です」と言われて、反対する方はまずいません。それでも実務では、基本を飛ばして独自のやり方に走り、うまくいかずに戻ってくる、という場面がよく起こります。

ただ、ここで一つ整理しておきたいことがあります。基本は「知っておくべき教養」ではありません。まず型どおりにやってみて、その結果としてデータを貯めるための手段です。そして改善は、そのデータが貯まって初めて始まります。

もう一つ、大きな変化があります。この「型どおりにやる」部分は、いまや生成AIにかなりの部分を任せられるようになりました。武道や芸事でいう守破離の「守」を、AIが肩代わりしてくれるイメージです。

この記事では、守破離という古い言葉を借りながら、生成AIをどこまで使い、どこから自社の出番になるのかを整理します。専門知識がなくても読めるように書いていますので、これから新しい取り組みを始める方にも役立つはずです。

守破離という考え方を、仕事に当てはめる

守破離は、もともと修業の段階を表す言葉です。仕事に当てはめると、次のように整理できます。

段階内容必要なもの
守世の中の標準的なやり方を、そのまま実行する一般的な知識と手順
破自社のデータを見て、型を部分的に変える実施して貯まった自社データ
離自社ならではのやり方として確立する積み重ねた改善の結果

多くの方が「うちは特殊だから」と言って、いきなり破や離から始めようとします。気持ちは分かりますが、これは順番として無理があります。型を一度も実行していないと、何を変えたのかが記録に残らないからです。変えた記憶はあるけれど何を変えたかは曖昧、という状態では、うまくいっても再現できません。

「守」は、生成AIでかなりのところまでできます

生成AIは、世の中にある膨大な文章を学習しています。「守」の中身、つまり多くの人が同じように書いていることは、AIにとって最も答えやすい領域です。

しかも、いまのAIは教えてくれるだけではありません。手順書のたたき台、チェックリスト、案内文、記録用の表のひな形といった、実行に必要な道具までその場で作れます。つまり、知識を得るだけでなく、とりあえず実施できる状態まで一気に進めるということです。

以前なら、本を数冊読み、セミナーに行き、詳しい人に時間をもらって、ようやくスタート地点に立てました。その準備期間が、いまは数時間から数日まで縮んでいます。

AIに「守」を作らせるときの頼み方

難しいテクニックは不要です。次の4点を意識するだけで、実用的な水準になります。

  1. 立場と目的を伝える:「社員10名の会社で、初めて◯◯を担当します」と前置きするだけで、答えが現実的になります。
  2. 実行できる形で出させる:「手順書にして」「チェックリストにして」「記録用の表を作って」と頼むと、そのまま使えます。
  3. 失敗例もセットで聞く:「初心者がやりがちな失敗も教えてください」は、費用対効果の高い一文です。
  4. 記録する項目を一緒に決める:「あとで効果を確認するために、何を記録しておくべきですか」と聞いておきます。これが後々効いてきます。

ちなみに、AIに「売上を一気に倍にする裏ワザを教えてください」と聞くと、多くの場合「まずは現状の把握から始めましょう」と、実に真っ当な答えが返ってきます。裏ワザを聞いたのに正論で返される。少し悔しいのですが、だいたいこれが正解です。

実施しなければ、データは1件も貯まりません

ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。

改善とは、結果を見て手を入れることです。ですから、改善するには結果が必要で、結果を得るには実施が必要です。当たり前のようですが、この順番が崩れている現場は少なくありません。

  • 何をやるか会議を重ねているが、まだ何も始まっていない
  • 始めてはいるが、何件、いくら、何分といった記録が残っていない
  • 記録はあるが、誰も見返していない

いずれの場合も、手元にデータがありません。データがないまま改善しようとすると、結局は声の大きい人の勘で決まります。試合のビデオを回さずに、あとから判定だけしようとするようなものです。

生成AIの価値は、ここで効いてきます。準備に費やしていた時間を短縮し、早く実施に移せる。実施が早まれば、データが貯まり始めるのも早まります。半年かけて完璧な計画を作るより、2週間で型どおりに始めて、3か月分の記録を持っているほうが、はるかに強い立場です。

たとえば、ホームページからの問い合わせを増やしたい会社の場合

イメージしやすいように、一般的な例で考えてみます。

社員10名ほどの会社で、営業担当のAさんが「ホームページからの問い合わせを増やしてほしい」と社長に指名されました。Aさんは営業が本業で、Web の経験はありません。

守の段階として、Aさんは生成AIに、一般的な進め方、どの数字を見るべきか、よくある失敗を聞きました。返ってきたのは、どの教科書にも書いてあるような内容です。しかしAさんにとっては、初めて手にする地図です。

そこでAさんは、型どおりに始めました。月に2本、自社の業務に関する記事を書く。問い合わせボタンを分かりやすい位置に置く。そして、月ごとのアクセス数、記事ごとの閲覧数、問い合わせ件数を、1枚の表に記録していきました。

3か月後、記録を見返すと、あることに気づきます。アクセス数が多い記事と、問い合わせにつながっている記事が、一致していないのです。読まれている記事はよくある一般論で、問い合わせが来ていたのは、自社の作業工程を写真付きで説明した、地味な記事のほうでした。

ここから先が破の段階です。「一般論ではなく、自社の現場が見える記事を増やす」という方針は、AIには事前に出せません。この気づきは、Aさんの会社が実施して初めて生まれたデータから出てきたものだからです。

そして、記事を増やしてまた記録を取る。この繰り返しを続けた先に、自社なりの型、つまり離が残ります。

改善を回すために、実施前に決めておく3つのこと

データは、放っておいても貯まりません。始める前に、次の3点だけ決めておいてください。

  1. 何を記録するか:件数、金額、時間、回数など、数えられるものを3つ程度に絞ります。多すぎると続きません。
  2. どこに記録するか:表計算ソフトの1枚のシートで十分です。凝った仕組みは、続かない原因になります。
  3. いつ見返すか:月末の30分など、あらかじめ予定に入れます。見返す予定のない記録は、ただのファイルです。

この3点は、AIに「守」を作らせるときに一緒に頼んでしまうのが効率的です。記録の表のひな形まで作ってもらえます。

AIとの役割分担を、はっきりさせる

整理すると、こうなります。

  • AIが得意:一般的な手順、必要な準備、よくある失敗、道具のひな形。貯まったデータの集計や、傾向の読み取りを手伝うこと。
  • AIには無理:自社のデータを取ること。そのデータをどう解釈し、次に何を試すと決めること。

判断の分かれ目は分かりやすく、AIが「状況によります」「目的によって異なります」と言い始めたら、そこから先が自社の出番です。その一言は逃げではなく、境界線の案内だと考えてください。

なお、AIの答えを使うときは、次の点にご注意ください。法律、制度、補助金、数値、企業名などは、必ず官公庁や公式サイトなどの一次情報で確認してください。AIは、もっともらしい間違いを、堂々と自信たっぷりに書くことがあります。また、顧客情報や未公開の経営数値を入力してよいかは、使い始める前に社内でルールを決めておくことをおすすめします。

明日からできる3ステップ

  1. 守をAIに作らせる:テーマを一つ選び、標準的な手順、よくある失敗、記録すべき項目をAIに出させ、手順書とチェックリストにします。所要時間は30分程度です。
  2. 小さく始めて、記録する:完璧な計画を待たず、型どおりに実施します。同時に、決めた3つの数字を毎回記録します。
  3. 3か月後に、記録を見返す:うまくいった部分といかなかった部分を見比べ、変える箇所を1つだけ決めます。ここが、あなたの会社の「破」の始まりです。

まとめ

  • 基本とは、知識として持っておくものではなく、実施してデータを貯めるための手段です。
  • 守破離の「守」、つまり標準的なやり方は、生成AIにかなりの部分を任せられます。
  • AIが短縮してくれるのは準備時間です。その分だけ早く実施でき、早くデータが貯まります。
  • 改善、すなわち「破」は、自社で実施して初めて手に入るデータからしか始まりません。
  • 記録する項目、記録する場所、見返す日は、始める前に決めておきます。

完璧な計画を練るより、型どおりに始めて3か月分の記録を持っているほうが、次の一手は確実に良くなります。まずはテーマを一つ選んで、AIに「守」を作らせるところから始めてみてください。

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