やりたいことが10個あるとき、最初にやるべきなのは「9個を後回しにする」ことです

「やらなければいけないことが、多すぎるんです」

経営の現場では、この言葉が本当によく出てきます。

新しいお客様を増やしたい。ホームページも古いままで気になる。人手が足りないので採用もしたい。日々の事務作業にムダが多い気がする。値上げも検討しないといけない。そういえば、補助金の案内も届いていた——。

どれも、本当に必要なことです。後回しにしていい話はひとつもありません。

ところが、ここでよく起きるのが「全部やろうとして、結局どれも終わらない」という状態です。半年後に振り返ると、リストの項目だけが増えていて、終わったものが一つもない。心当たりのある方は、決して少なくないと思います。

この記事では、課題がたくさんあるときに、どうやって優先順位をつけ、なぜ「まず1つに絞る」ことが効くのかを順番に説明します。専門的な知識は必要ありません。読み終えたときに、お手元のリストから「今週やる1つ」を選べる状態になることを目指します。

なぜ「同時にやる」とうまくいかないのか

「優先順位が大事」という話は、誰もが一度は聞いたことがあるはずです。それでも同時進行をやめられないのは、理由がわからないまま「そうすべき」とだけ言われているからかもしれません。まず、うまくいかない理由を3つ整理します。

理由1:使える時間と人は、増えない

課題は思いついた分だけ増やせますが、時間と人は思いついても増えません。10個の課題に均等に力を配ると、1つあたりに割ける力は10分の1になります。1つを終わらせるのに必要な力が「10分の1」で足りることは、まずありません。

結果として、どれも「少し進んだけれど、終わっていない」状態で止まります。これがいちばん厄介です。終わっていない仕事は、頭の中の置き場所を占領し続けるからです。

理由2:切り替えるたびに、助走が必要になる

作業を切り替えると、そのたびに「どこまでやったんだっけ」と思い出す時間が発生します。資料を開き直し、前回の判断を確認し、関係者に経緯を聞く。この助走時間は、記録にも残らないのに確実に消えていきます。

3つの案件を行ったり来たりしていると、助走ばかりで本走が始まらない、ということが普通に起こります。

理由3:成果が見えないと、人は続けられない

同時進行の最大の副作用は、「やった感」が残らないことです。

人も組織も、成果が見えたときにいちばん元気が出ます。「これが終わった」という手応えがあるから、次に進めます。逆に、何も完了しない期間が続くと、「うちは何をやってもダメだ」という空気が生まれます。これは能力の問題ではなく、やり方の問題です。

優先順位の前に、まず「並べる」

いきなり順位をつけようとすると、たいてい失敗します。頭の中にあるものが全部見えていない状態で順位をつけても、後から「あれを忘れていた」が出てくるからです。順位づけの前に、棚卸しをします。

頭の中にあるものを、全部書き出す

紙でも、表計算ソフトでも、スマートフォンのメモでも構いません。大事なのは次の3点です。

  • 大きいことも小さいこともまとめて書く(「新工場」と「玄関の電球交換」が並んでいてよい)
  • 実現できるかどうかは、この時点では考えない
  • 書く順番も気にしない

10分ほどで、たいてい20〜40個くらい出てきます。多くて驚くかもしれませんが、それは今まで頭の中だけで抱えていたということです。書き出すだけでも、少し楽になります。

「困っていること」と「やりたいこと」を分ける

書き出したものを眺めると、性質の違う2種類が混ざっていることに気づきます。

  • 困っていること(課題):新規のお客様が減っている、残業が多い、社員が辞めてしまう
  • やりたいこと(手段):ホームページを作り直す、新しいシステムを入れる、SNSを始める

ここが重要です。「ホームページを作り直したい」は手段であって、課題ではありません。その奥には「新規のお客様が減っている」という困りごとがあるはずです。

手段だけを並べて順位をつけると、「そもそも何のためにやるんだっけ」が抜け落ちます。困っていることを先に決め、そのための手段を後から選ぶ。この順番を守るだけで、無駄な投資がかなり減ります。

優先順位をつける3つのものさし

並べ終えたら、次の3つで見ていきます。どれも、正確さより「ざっくり比べられること」が大切です。

ものさし1:効果 — 解決したら、何がどれだけ良くなるか

売上が増えるのか、費用が減るのか、時間が浮くのか、リスクが下がるのか。できれば「月あたり何万円」「月あたり何時間」のように、数字にしてみてください。

正確である必要はありません。「たぶん月5万円くらい」で十分です。数字にすると、感覚では同じ大きさに見えていた課題の差が、はっきり見えてきます。

ものさし2:労力 — どれくらいの手間・お金・期間がかかるか

自分や社員の作業時間、外部に払う費用、完了までの期間を、これもざっくりで見積もります。「3日」「1か月」「半年」くらいの粒度で構いません。

ものさし3:今すぐ着手できるか

やりたくても、今は始められないものがあります。

  • 誰かの返事待ち、許認可待ち
  • 繁忙期が終わらないと手がつけられない
  • 申請期限が決まっていて、時期を選べない

着手できない案件を1位にしてしまうと、その週は何も進みません。

3つを合わせて、最初の1つを選ぶ

効果・労力・着手しやすさを、それぞれ3段階(大・中・小)で点をつけて並べてみてください。理想は「効果が大きく、労力が小さく、すぐ着手できる」ものです。

ここでよくある失敗が、「効果は最大だが、労力も最大」のものにいきなり手を出すことです。理屈の上では正しいのですが、日常業務を回しながらの大仕事は途中で止まりやすく、止まると自信まで失います。

最初の1つは、できれば「早く終わって、効果が目に見える」ものを選んでください。最初の1勝は、成果そのものよりも、「うちでもやればちゃんと終わる」という実感をもたらします。この実感が、2つ目以降の燃料になります。

迷ったときは、「これが解決したら、残りのいくつが小さくなるか」で考えてみてください。他の課題を連れて小さくなってくれるものが、たいてい良い1つ目です。

たとえば、ある小さなカフェで考えてみます

理解しやすいように、仮の例で考えてみます。個人で営んでいる小さなカフェで、店主が次の6つを気にしているとします。

  1. ランチのお客様が減っている
  2. SNSをしばらく更新できていない
  3. 新メニューを開発したい
  4. レジ締めと日報作成に、毎日30分かかっている
  5. 店内が古びてきたので改装したい
  6. アルバイトが定着しない

3つのものさしで見てみます。

  • 改装(5):費用が大きく、期間も長い。売上がどれだけ増えるかも読めない。効果=不明、労力=大。
  • 新メニュー(3):労力は中くらいだが、効果は出してみないとわからない。
  • お客様が減っている(1):効果は間違いなく大きい。ただし、近隣に競合ができたのか、味や価格の問題なのか、原因がわからない。まず調べる作業が必要。
  • レジ締め(4):1日30分は、月に約10時間。効果を数字で言える。やり方の見直しや道具の導入で対応でき、明日から着手できる。効果=中、労力=小、着手=すぐ。

この場合、最初の1つは レジ締めの改善 が有力です。

理由は3つあります。第一に、浮く時間が数字ではっきりしていること。第二に、短期間で終わること。第三に、浮いた月10時間を、次の課題である「お客様が減っている原因調べ」に回せることです。1つ目が2つ目を後押しする形になっています。

「いちばんやりたかったのは改装なのに」と思われるかもしれません。その気持ちはよくわかります。ただ、壁紙を新しくしても、レジ締めの30分は1分も短くなりません。逆に、時間が浮けば、改装をじっくり検討する余裕が生まれます。

これは「改装をあきらめる」話ではなく、「どの順番なら全部にたどり着けるか」という話です。

1つに絞ったあとに、必ずやる3つのこと

選んで終わり、にしないための仕上げです。

1. 「終わった」の定義を決める

「レジ締めを改善する」では、いつまでも終わりません。「レジ締めを15分以内で終える状態にする」「今月末まで」のように、達成した状態と期限をセットで決めてください。ここが曖昧だと、何となく続いて、何となく消えます。

2. 残りは「捨てる」のではなく「置いておく」

後回しにした課題は、消さずに待機リストに移し、見える場所に残してください。書いて残っているとわかると、人は安心して忘れられます。忘れられると、目の前の1つに集中できます。

3. 見直す日を、先に決めておく

月に1回でも構いません。カレンダーに「優先順位の見直し」と入れておきます。状況は変わりますし、待機リストの中身も変わります。定期的に見直す約束があるからこそ、途中で気になっても「次の見直しで扱おう」と判断できます。

つまずきやすい3つのパターン

「1つ」が大きすぎる

「業務改善」「DX」は、1つではありません。中に10個くらい入っています。1〜2週間で終わる大きさまで割ってください。割れないなら、それはまだ課題の輪郭がつかめていないサインです。その場合は「調べる」こと自体を最初の1つにします。

決めたが、担当者が決まっていない

会議で優先順位が決まっても、誰がやるかが決まっていなければ進みません。「みんなでやりましょう」は、残念ながら「誰もやりません」とほぼ同じ意味になりがちです。担当者と期限を、その場で名前入りで決めてください。

新しい話が来るたびに、1位が入れ替わる

新しい相談や案内が届くと、そちらが魅力的に見えるものです。そこで、割り込みのルールを先に決めておきます。たとえば「今の1つが終わるまでは、期限が迫っているもの以外は待機リスト行き」といった具合です。ルールがあると、断る判断に悩まなくて済みます。

まとめ

課題が多いこと自体は、問題ではありません。事業が動いている証拠でもあります。問題になるのは、多いまま、全部に手をつけようとすることです。

手順をもう一度整理します。

  1. 頭の中にあるものを、すべて書き出す
  2. 「困っていること」と「やりたいこと(手段)」を分ける
  3. 効果・労力・着手しやすさの3つで、ざっくり点をつける
  4. 「早く終わって、効果が目に見える」1つを選ぶ
  5. 終わった状態と期限を決め、残りは待機リストへ
  6. 見直す日をカレンダーに入れておく

10個を同時に1割ずつ進めても、終わるものはゼロです。1個を終わらせれば、残りは9個になります。遠回りに見えて、こちらのほうが確実に速い。

まずは、紙を1枚用意するところからで十分です。

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