「求人を出しても、応募が来ないんです」
業種や地域を問わず、よく聞かれるお悩みです。人手不足という言葉は、いまや天気の話題と同じくらい、あいさつ代わりに使われるようになりました。
ただ、この問題には少し困った性質があります。それは、待っていても解決しないということです。景気が回復すれば、補助金が出れば、賃上げをすれば――そうした「いつか」を前提にした計画は、残念ながら成り立ちにくくなっています。
この記事では、人手不足を「いつか終わる困りごと」ではなく「これからずっと続く前提条件」としてとらえ直したうえで、少ない人数でも業務が回る仕組みをどうつくるかを、順を追って整理します。経営者の方はもちろん、現場で改善を任された方にも読んでいただける内容にしました。
人手不足は景気の問題ではなく、人口の問題です
まず、事実を確認しておきます。
帝国データバンクの調査によると、2026年7月時点で正社員の不足を感じている企業は51.3%、非正社員では28.8%でした。正社員については、7月としては4年連続で半数を超えています。企業の2社に1社が「人が足りない」と答えている状態が、もう何年も続いているわけです。
さらに長い目で見ると、状況はもっとはっきりしています。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、働き手の中心となる15〜64歳の人口は、2032年に7,000万人、2043年に6,000万人、2062年に5,000万人を割り込み、2070年には4,535万人まで減少すると見込まれています。2020年時点の約7,500万人と比べると、およそ4割減ということになります。
ここで大事なのは、この数字が「予想」というより「ほぼ確定した見通し」に近い、という点です。2043年に働き盛りになる人は、すでに全員生まれています。仮に今年から出生数が劇的に増えたとしても、その子どもたちが働き始めるのは20年ほど先です。つまり、今後20年間の働き手の総数は、もう動かしようがありません。
景気がよくなれば人が採れる、という感覚は間違いではありません。実際、景気後退の局面では人手不足感はやわらぎます。しかしそれは、プールの水位が一時的に下がるだけで、プール自体が小さくなっていく流れは変わらないということです。
「人を増やす」だけでは追いつかない、3つの理由
もちろん、採用をやめましょうという話ではありません。ただ、採用だけを頼りにする戦い方には、構造的な弱点があります。
理由1:全国規模の椅子取りゲームになっている
働き手の総数が決まっている以上、ある会社が採用に成功することは、別の会社が採り負けることを意味します。全体としては誰も増えません。この競争では、知名度・給与水準・立地・福利厚生で優位に立つ企業が有利になります。中小企業が真正面から張り合うのは、なかなか骨の折れる戦い方です。
理由2:採用も定着もコストがかかる
求人広告費や紹介手数料だけではありません。面接に費やす時間、入社後の教育、担当者がつきっきりで指導する期間の生産性低下。これらを合わせると、1人を戦力化するまでのコストは決して小さくありません。そして、その方が数か月で辞めてしまえば、費用はまるごと消えます。
理由3:人が増えると、人を管理する仕事も増える
見落とされがちですが、人数が増えれば、指示・確認・調整・評価といった「人がいるから発生する仕事」も増えます。10人の組織と20人の組織では、必要な会議も、決裁のやりとりも、認識合わせの手間も違います。人を増やしたのに、なぜか現場の忙しさが変わらない――そんなときは、この効果が働いている可能性があります。
人が足りないから人を増やす、という発想は、穴の開いたバケツに水を足し続けるようなものです。水を足すこと自体は間違っていません。ただ、穴をふさぐほうが先です。
「少ない人で回す」は「少ない人で頑張る」ではありません
ここで、ひとつはっきりさせておきたいことがあります。
少ない人数で業務を回す、と聞くと、「一人ひとりがもっと頑張る」「残業で埋める」「できる人が全部やる」といった話に聞こえるかもしれません。これは、まったく逆です。
根性で埋めた穴は、必ずまた開きます。しかも、開き方が悪い。頑張っていた人が体を壊すか、辞めるか、そのどちらかで穴が開くからです。そしてその人が抜けた瞬間、業務は止まります。なぜ止まるかというと、その業務のやり方がその人の頭の中にしか保存されていないからです。
目指すのは、特定の誰かの頑張りに依存しなくても、仕事が前に進む状態です。言い換えると、人を増やさずに済む状態ではなく、誰が担当してもだいたい同じ結果が出る状態です。
少ない人数で回る仕組みをつくる、4つの手順
進め方には、守ったほうがよい順番があります。
手順1:いまの業務を、すべて見えるようにする
最初にやるのは、改善ではなく「棚卸し」です。誰が、どの業務を、月に何回、1回あたり何分かけてやっているか。表計算ソフトで構いませんので、書き出してみてください。
このとき、「重要な仕事」だけを書かないことがコツです。書類のファイリング、請求書の封入、日報の転記、といった地味な作業ほど、積み上がると大きな時間を食っています。
実際に書き出してみると、たいてい発見があります。よくあるのが、誰も見ていない資料が、何年もまじめに作られ続けているというケースです。作っていた本人に聞くと「誰かが見ていると思っていました」とおっしゃいます。
手順2:やめる・減らす
棚卸しができたら、次は削ります。ここで使いやすいのが「ECRS(イクルス)」という考え方です。次の順番で業務を見ていきます。
- E:やめられないか(Eliminate)― そもそもこの作業は必要か。やめたら誰が困るか。
- C:まとめられないか(Combine)― 週5回の作業を週1回にまとめられないか。似た作業を1人が続けてやれないか。
- R:順番を入れ替えられないか(Rearrange)― 手戻りが起きている工程を、前後させて減らせないか。
- S:簡単にできないか(Simplify)― 入力項目を減らす、チェックを1回にする、フォーマットを固定する。
この順番が重要です。やめれば効果は100%ですが、簡単にするだけでは効果は数割にとどまります。いちばん効果の大きい選択肢から検討する、という順序になっています。
手順3:誰でもできる形にそろえる(標準化)
残すと決めた業務は、やり方をそろえます。手順書やマニュアルの出番ですが、分厚い冊子をつくる必要はありません。
- 使う画面のスクリーンショットに矢印を入れる
- 作業している様子を3分だけスマートフォンで録画する
- 判断に迷う場面と、そのときの判断基準だけを箇条書きにする
このくらいで十分に機能します。大切なのは完成度より、その人が休んだ日に、他の人が見て動けるかです。
なお、マニュアルは書いた瞬間から古くなります。賞味期限のある食品と同じで、放っておくと静かに傷みます。半年に一度、担当者が自分で直す時間を業務として組み込んでおくと長持ちします。
手順4:機械に任せる
ここまで来て、ようやくシステムやツールの検討です。転記、集計、コピー&ペースト、定型メールの送信といった作業は、機械が得意な領域です。
順番を守っていただきたいのは、この手順4を最初にやってしまう失敗が非常に多いからです。ムダな作業を自動化すると、ムダが時速100キロで走り出します。 しかも高価な仕組みに組み込まれてしまうと、あとから「この作業、やめませんか」と言い出しにくくなります。削ってから、そろえてから、任せる。この順番です。
具体例:ある食品卸売会社の受注業務で考えてみます
イメージしやすいよう、一般的な例で考えてみます。従業員30名ほどの食品卸売会社があり、受注業務を2名で担当しているとします。
現状
取引先からの注文は、FAX・電話・メールの3経路で届きます。担当者はそれを紙に書き写し、基幹システムに手入力し、在庫を確認して、納期を返信します。1日およそ80件。繁忙期には残業が常態化し、聞き間違いによる誤出荷も月に数件発生しています。
手順1(棚卸し)
書き出してみると、受注1件あたりの作業時間は平均9分。うち4分が「転記と入力」、2分が「在庫確認のための問い合わせ」に費やされていました。さらに、日次で作成していた受注一覧表を、実は誰も開いていないことが判明します。
手順2(やめる・減らす)
まず、誰も見ていない受注一覧表を廃止します(E)。次に、都度おこなっていた在庫確認を、朝と昼の2回、在庫状況を全社共有する方式に変更します(C)。緊急案件だけ個別確認に回します。
手順3(標準化)
電話注文の聞き取り項目を固定し、確認の読み上げ順を決めます。これで聞き間違いが減り、新人でも同じ品質で受けられるようになります。
手順4(機械に任せる)
メール注文については、取引先に共通の注文フォームを使ってもらうよう順次お願いしていきます。フォームからの入力なら転記が不要になります。FAXの取引先には、無理に変更を迫らず現行のまま残します。
結果のイメージ
1件あたりの作業時間が9分から6分になれば、80件で240分、1日あたり4時間の余裕が生まれます。ここで生まれた時間を、既存取引先への提案や新規開拓に充てられれば、同じ2名のままで売上を伸ばす余地が出てきます。
この例で注目していただきたいのは、新しいシステムをほとんど買っていないという点です。効果の大半は、やめたこと・そろえたことから出ています。
進めるときに、つまずきやすい点
「効率化」という言葉を現場に投げない
現場にとって効率化は、しばしば「人減らし」と同義に聞こえます。まずは「楽にしたい」「ミスを減らしたい」「残業を減らしたい」といった、現場にとっての利益から入るほうが、協力を得やすくなります。
全部を一度に変えない
10の業務を同時に変えると、何が効いて何が効かなかったのか分からなくなります。まずは、時間を食っていて、かつ変えやすい業務を1つ選ぶ。そこで小さく成功させると、次に進めやすくなります。
浮いた時間の使い道を、先に決めておく
これは意外と重要です。空いた時間の行き先を決めておかないと、時間は静かに別の作業に吸収され、「結局忙しいまま」という感想だけが残ります。営業活動に充てるのか、教育に充てるのか、残業削減として実現するのか。事前に決めておいてください。
効果は「時間」で測る
売上や利益は、他の要因の影響を受けます。改善の効果を確かめたいなら、1件あたりの作業時間や月間の残業時間といった、直接つながる指標で見るのが確実です。
まとめ:採用を「唯一の解決策」から「打ち手のひとつ」へ
要点を整理します。
- 人手不足は景気循環ではなく人口構造に由来するため、待っていても解決しません
- 採用だけに頼る戦い方は、母数の決まった椅子取りゲームになります
- 目指すのは「少ない人数で頑張る」ではなく「誰が担当しても回る」状態です
- 進め方は、見える化 → やめる・減らす → そろえる → 機械に任せるの順番です
- ツール導入から始めると、ムダが高速で動き出します
最初の一歩としておすすめしたいのは、自社でいちばん時間を使っている業務を1つだけ選び、1週間だけ作業時間を記録してみることです。特別な道具はいりません。紙とペンでも構いません。
数字が出てくると、議論が変わります。「なんとなく忙しい」が「この作業に月40時間かかっている」に変わった瞬間、打ち手は具体的になります。
人が減っていく時代に、人を前提にした仕組みのままでいるのは、少し心もとない。逆に言えば、仕組みを整えた会社は、同じ人数でより多くの仕事ができるようになります。人手不足は、その差が開いていく時代の別名なのかもしれません。

ミタスサポート事務所代表。富山県で中小企業向けに経営とIT支援を行っています。
中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。
小さな事業者向けに小回りの利くITサービスやサイバーセキュリティ対策に力を注いでいます。

