変化するには、現状をよく見ること。見て見ぬふりはやめよう

「うちは昔からこのやり方でやってきたから」

このセリフ、どこかで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。ご自身が言ったことがあるという方も、いらっしゃるかもしれません。

たしかに、これまで積み重ねてきた経験や成功の歴史は、何ものにも代えがたい財産です。それを否定するつもりはまったくありません。ただ、ひとつだけ、立ち止まって考えてみていただきたいことがあります。

「今までこれでうまくいった」という事実は、「これからもこれでうまくいく」ことを保証してくれるのでしょうか。

残念ながら、答えは「ノー」です。スマートフォンが登場してから街の景色が変わったように、私たちの周りの環境は、想像よりもずっと速いスピードで変化しています。気づけば、駅の改札からは切符を入れる人が消え、本屋さんは少なくなり、ハンコを押す機会も減りました。一昔前なら「そんな未来は来ない」と笑い飛ばされたような変化が、当たり前の日常になっています。

そんな時代に、「今までのやり方」だけを握りしめていたら、どうなるでしょうか。考えるだけで、ちょっと背筋が寒くなりますね。

不易流行という言葉の、本当の意味

「不易流行(ふえきりゅうこう)」という言葉があります。もともとは松尾芭蕉の俳諧の考え方から来た言葉で、「変えてはいけないもの」と「変え続けるべきもの」の両方を大切にしようという教えです。

これは、ビジネスにも、人生にも、そのまま当てはまる考え方だと思います。

整理すると、こういうことです。

本質は変えない。やり方は変え続ける。

たとえば、お客様に喜んでいただきたいという想い。これは変えてはいけない本質です。しかし、その想いをどうやって形にするかという「やり方」は、時代に合わせて変え続けないと、お客様には届かなくなってしまいます。昔は電話で連絡することが丁寧だとされていましたが、今は相手によってはメッセージのほうが喜ばれる、ということもあります。「丁寧にしたい」という本質は同じでも、やり方は変わっているわけです。

ところが、ここで困ったことが起こります。

私たちは、無意識のうちに、これを逆にやってしまいがちなのです。

逆をやってしまう、人間の不思議

本質を大切にしたつもりで、いつの間にかやり方だけを守っている。これは本当によくあることです。

たとえば、ある飲食店を想像してみてください。創業者は「お客様に温かい食事を食べてほしい」という想いから、注文を受けてから一品一品丁寧に作るスタイルを大切にしてきました。お客様もそれを喜んで、お店は繁盛しました。

ところが何十年か経ち、世の中はランチタイムに15分しか時間が取れないお客様が増えました。お客様は「温かいうちに、サッと食べたい」と思っています。それなのにお店は、「丁寧に作るのがうちの伝統だから」と、相変わらず20分かけて料理を出し続けます。お客様は料理を食べる前に、時間切れで店を出ていくことになります。

この場合、本来の本質は「お客様に温かい食事を食べてほしい」だったはずです。ところが、いつの間にか「20分かけて作る」というやり方そのものが本質にすり替わってしまっています。守るべきものを取り違えてしまっているわけです。

これ、笑い話のようですが、ご自身の仕事や生活に置き換えてみると、ドキッとするものが一つや二つ出てくるかもしれません。私自身もこの原稿を書きながら「あ、自分にもあるな」と思って、思わず机の前で固まってしまいました。人のことは言えないものです。

なぜ私たちは、見て見ぬふりをするのか

ではなぜ、私たちは本質を見失い、やり方だけを守ろうとしてしまうのでしょうか。

理由はいくつかありますが、一番大きいのは、「変えるのが怖いから」だと思います。

今のやり方を変えるということは、これまでの自分や、これまでの選択を、一度疑うということです。これは、結構勇気のいることです。「今のままでも、まあ大丈夫だろう」と思っていたほうが、ずっと楽です。だから私たちは、薄々おかしいなと感じていることがあっても、ついつい見て見ぬふりをしてしまいます。

机の上に積み上がった「あとで考えよう」の書類のように、心の中にも「あとで考えよう」が積み上がっていく。気づいたときには、雪崩を起こす寸前まで来ている。そんな経験、心当たりはありませんか。

大切なのは、自分に問い続けること

では、どうすればいいのでしょうか。

特別なことは、必要ありません。ただ、定期的に、自分自身にこう問いかけてみてほしいのです。

「自分はいま、何を見て見ぬふりしているのか?」

この問いかけは、なかなか痛いところを突いてきます。だから、できれば一人で静かな時間に、じっくり考えてみることをおすすめします。通勤の電車のなかでも、お風呂のなかでも、寝る前の数分でもかまいません。

最初は何も出てこないかもしれません。でも、続けていると、少しずつ気づきが出てきます。

「最近、あのお客様からの連絡が減っているのに、見て見ぬふりをしていたな」 「数字が悪くなっているのに、一時的なものだと思い込もうとしていたな」 「あの社員が辛そうにしていたのに、忙しさを理由に話を聞いていなかったな」

こういった気づきこそが、変化の第一歩です。問題を解決するためには、まず問題があると認めるところから始まります。当たり前のようですが、この「認める」が、実は一番難しいのです。

本質を見つめ、やり方を変える勇気を

変わり続けるというのは、何も自分のすべてを変えるということではありません。むしろ、本当に大切にしたい本質を見極めるために、その周りのやり方をどんどん柔軟に変えていく、ということです。

幹は太く、しっかりと。枝葉は風に合わせてしなやかに。そんなイメージでしょうか。

そのためにも、まずは「見て見ぬふり」をやめることから始めてみてください。見るのが少し怖いものほど、実は変化のヒントが隠れていることが多いものです。

最後に、もう一度問いかけさせてください。

あなたはいま、何を見て見ぬふりしていますか?

その答えに、未来を変える種が眠っているかもしれません。

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