決算書は「健康診断」、経営に必要なのは「人間ドック」です

決算書を見て「黒字だからよし」で終わっていませんか

一年に一度、決算書ができあがります。税理士さんから説明を受けて、利益が出ていれば一安心。赤字なら少し落ち込む。そして書類はファイルに綴じられ、棚に戻っていく。よくある光景だと思います。

決算書は、会社の状態を知るうえでとても大切な資料です。ただ、決算書だけを見て「うちは健康だ」「うちは不健康だ」と判断してしまうのは、少しもったいない話です。

この記事では、決算書を健康診断にたとえながら、なぜ決算書だけでは改善策が決まらないのか、そして自社に合った「精密検査」をどう設計すればよいのかを、できるだけ専門用語を使わずに説明します。経理の担当者でなくても読めるように書きましたので、現場のリーダーの方にも役立つはずです。

決算書は「粗い健康診断」です

わかるのは「どこかがおかしいかもしれない」ところまで

健康診断を思い出してください。身長、体重、血圧、血液検査。結果表には数値が並び、基準値から外れているところにマークがつきます。

ここでわかるのは「何かが起きているかもしれない」ということまでです。肝臓の数値が高いと出ても、原因がお酒なのか、薬なのか、体重の増加なのか、別の病気なのかは、あの一枚だけではわかりません。

決算書も同じです。売上高、売上総利益、営業利益、そして資産と負債。会社全体を一年分まとめた数値が並びます。利益が減っていれば「何かが起きている」ことはわかります。けれども、どの商品で、どの得意先で、どの月に、何が起きたのかまでは書いてありません。

しかも、年に一度届く「過去の記録」です

健康診断は年に一度です。決算書も基本は年に一度。しかも、できあがるのは決算日から二、三か月後というケースが少なくありません。

つまり、手元に届いたときには、一年以上前の出来事まで含まれた資料になっています。去年の夏の失敗を、今年の秋に知る。それを見ながら来期の作戦を立てる。これでは、バックミラーだけを見て高速道路を走るようなものです。

決算書が悪いわけではありません。役割が違うのです。決算書は「一年を正しくまとめる」ためのもので、「毎日の経営判断を助ける」ためにつくられた資料ではありません。

経営にも「人間ドック」が必要です

健康診断で気になる数値が出たら、次は精密検査です。エコー、CT、内視鏡。目的は、どこに、どの程度の問題があるのかを特定することです。

経営でも同じことをします。決算書という粗い一枚を出発点にして、気になったところを細かく分解していく。これが経営の人間ドックにあたります。

分解のしかたは、実はシンプルです

難しい理論は要りません。基本は「分ける」と「割る」の二つだけです。

  • 売上を「客数 × 客単価」に分ける
  • 売上を商品別、得意先別、店舗別、担当者別に分ける
  • 一年を月別、週別、曜日別、時間帯別に分ける
  • 金額を「一人あたり」「一時間あたり」「一台あたり」に割る

合計されたままの数字は、なかなか本音を語ってくれません。分けて、割って、はじめて「どこがおかしいのか」が浮かび上がってきます。

測る項目は、会社ごとに違います

ここが大事な点です。人間ドックでも、年齢や体質によって受けるべき検査は変わります。会社も同じで、見るべき数値は業種や規模、そして今いちばん気にしていることによって変わります。

  • 飲食店なら、客数、客単価、回転率、原価率、食材のロス率
  • 製造業なら、不良率、設備の稼働率、段取り替えの時間、一人あたり生産高
  • 小売業なら、来店客数、買上率、在庫回転日数
  • サービス業なら、受注率、一件あたりの作業時間、リピート率

どこかで見かけた「経営者が見るべき指標30選」を、そのまま全部そろえる必要はありません。他人の処方箋を飲んでも、自分の体調はよくならないのと同じです。

たとえば、ある小さな飲食店で考えてみます

ここからは、理解しやすいように、架空のお店を例にして考えてみます。

ランチとディナーの両方を営業している飲食店が、今期の決算で「売上は前年並み、利益は減少」という結果になりました。決算書からわかるのは、ここまでです。社長は「客足が落ちたのかもしれない」と考えます。

そこで、精密検査として数値を分解してみます。

  1. 月別に分ける:売上が落ちているのは一部の月だけで、他の月はむしろ伸びている
  2. 時間帯で分ける:ランチの売上は伸びていて、落ちているのはディナーのほう
  3. 客数と客単価に分ける:ディナーの客数はほぼ横ばい。下がっていたのは客単価だった
  4. 注文の中身を見る:一人あたりのドリンクの注文数が減っている

ここまで来ると、「客足が落ちた」という最初の見立てとは、だいぶ違う景色が見えてきます。お客様は変わらず来てくださっていて、一杯目のあとの二杯目が出ていない。だとすれば、打ち手は集客の広告ではなく、二杯目を頼みたくなる仕掛けのほうかもしれません。

あわせて原価率とロス率も見ておけば、利益が減ったもうひとつの理由が、仕入価格の上昇なのか、廃棄の増加なのかも切り分けられます。原因が違えば、当然、対策も変わります。

これはあくまで、考え方を説明するための一般的な例です。実際には、まったく別の理由が隠れていることもあります。大切なのは、正解を一発で当てることではなく、思い込みだけで打ち手を決めないための材料を、数値でそろえておくことです。

もしここで分解をせず、「客が減った」と思い込んで広告費を増やしていたら、お金を使ったのに客単価は下がったまま、ということになりかねません。健康診断の結果を開封もせずに、テレビで見たサプリメントを箱買いするようなものです。

数値で管理すると、なぜ改善が進むのか

1. 比べられるから

数値のいちばんの価値は、比べられることです。先月と今月、去年と今年、A店とB店。「なんとなく調子がいい」は比べられませんが、数値なら比べられます。変化に気づくのが早くなれば、手を打てる時間も長くなります。

2. 共有できるから

「もっと頑張ろう」は、人によって受け取り方が違います。「今月はディナーのドリンクを、一人あたり1.5杯にしたい」であれば、全員が同じ絵を見られます。数値は、経営者の頭の中を社員と共有するための共通語です。

3. 検証できるから

打ち手を実行したあとで、効いたのかどうかを確かめられます。効かなかったとわかるのも、立派な成果です。同じ失敗を繰り返さずに、次の手へ進めますから。

自社の検査項目をつくる5つのステップ

  1. 困っていることを一つ書き出す:「利益が減っている」「人手が足りない」など、今いちばん気になることを一つだけ選びます。あれもこれもと欲張らないのがコツです。
  2. その数値を分解する:売上なら、客数と客単価へ。さらに時間、場所、商品、担当者など、分けられるところで分けていきます。
  3. 測る項目を3つまでに絞る:最初から10個は続きません。まずは3つです。
  4. 測り方と担当を決める:誰が、いつ、どこから数字を取るのかを決めます。レジや会計ソフト、既存の日報からそのまま取れるものが理想です。
  5. 月に一度、同じ形式で並べて見る:凝ったグラフは要りません。同じ表に毎月並べていくだけで、変化は十分に見えてきます。

このうち、つまずきやすいのは3番と4番です。立派な管理表をつくったものの、入力の手間が重くて三か月で更新が止まる。これは「ジムの年会費を払ったのに、行ったのは二回だけ」という、あの現象と同じ構造です。続けられる形が、いちばん優秀な形です。

数値を扱うときの注意点

測ること自体が目的になりやすい

体重計は、乗るだけでは体重を減らしてくれません。数値も、集めただけでは何も変わりません。「この数値がここまで動いたら、こうする」という約束まで決めて、はじめて管理になります。

数値に表れないものもある

職場の雰囲気、常連のお客様との関係、若手の成長。数値にしにくいものほど、あとからじわじわ効いてきます。数値は判断を助ける道具であって、判断そのものではありません。

悪い数値を出せる空気をつくる

不良率やクレームの件数は、正直に報告すると怒られそうな数値です。怒られるとわかっていれば、人は数値を丸めます。そして、丸められた数値をもとに立てた作戦は、当然うまくいきません。悪い数値を持ってきてくれた人に、まず「教えてくれてありがとう」と言えるかどうかが、分かれ道になります。

まとめ

  • 決算書は、会社の健康診断です。異常のサインは見つかりますが、原因まではわかりません
  • 原因を特定するには、細かく分解して見る「人間ドック」が必要です
  • 分解の方法は「分ける」と「割る」の二つで十分です
  • 測るべき項目は会社ごとに違います。まずは3つから始めましょう
  • 数値は、比べる・共有する・検証するための道具です

まずは直近の決算書を一枚出して、いちばん気になる数字に丸をつけてみてください。そして「この数字は、何と何に分けられるだろう」と考えてみる。そこから先が、改善の入口です。

健康診断の結果を封筒のまま引き出しにしまいがちな方は、決算書も同じ引き出しに入っていないか、ついでに確認してみてください。

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