「変わらなきゃ」と思った時には、もう遅い ― 経営における”変化のタイミング”の話

「うちの会社、そろそろ変わらないとマズいな」

経営者の方から、こうした言葉をお聞きすることがあります。しかし、問題はその「そろそろ」と思った時点が、すでにかなり危険水域に入っていることが少なくない、ということです。

人間の体に例えるなら、健康診断で「要再検査」の通知が来てから生活習慣を見直すようなものです。もちろん、その時点で改善することは大切ですし、何もしないよりはるかに良いのですが、本来であれば数値が悪化する前に手を打っておきたかった、というケースは多いのではないでしょうか。

経営においても、これとまったく同じことが起こります。むしろ、企業という組織は人間の体よりも”動きが鈍い”ぶん、変化に必要な時間が長くかかる傾向があります。本記事では、なぜ「変わらざるを得なくなってからでは遅い」のか、そしてどうすれば手遅れにならずに済むのかについて、具体的に考えていきたいと思います。

なぜ「変化の必要性に気づいた時」は遅いのか

理由その1:変化には時間がかかる

経営における「変化」は、一夜にして完了するものではありません。新しい事業を立ち上げるにしても、既存の業務をデジタル化するにしても、人材の育成や採用、設備投資、社内の合意形成など、数か月から数年単位の時間が必要です。

例えば、ある製造業の会社が「これからはECで直販もやろう」と決めたとします。サイトを作って、決済システムを導入して、物流の体制を整えて、運用できる人材を採用または育成して……と進めていくと、軌道に乗るまでに最低でも1年、場合によっては2〜3年はかかります。

つまり、「今すぐ変わらないとまずい」と気づいた時点で動き始めても、実際に効果が出るのは数年先。その間に状況がさらに悪化していけば、変化が実を結ぶ前に資金や体力が尽きてしまう、ということになりかねません。

理由その2:「変わる体力」も時間とともに失われる

意外と見落とされがちなのが、「変化するためにも、それなりの経営体力が必要だ」という点です。

新しいことを始めるには、お金も人も時間も必要です。ところが、業績が悪化してから変わろうとすると、ちょうどそれらが最も不足している状態で、最も大きな変革をしなければならないという、なんとも理不尽な状況に追い込まれます。

体調を崩して食欲もないときに、「今からフルマラソンを走ってください」と言われるようなものです。走れる気がしませんよね。(走ったことはそもそも一度もありません。)

理由その3:「ゆでガエル」現象

ご存じの方も多いかと思いますが、「ゆでガエル」という有名な比喩があります。カエルを熱湯に入れると驚いて飛び出すけれども、水から徐々に温度を上げていくと、変化に気づかずそのまま茹で上がってしまう、というお話です(実際の生物学的な真偽はさておき、比喩としてはよくできています)。

経営環境の変化は、まさにこの「徐々に温度が上がる」タイプであることが多いのです。市場のニーズが少しずつ変わる、競合がじわじわとシェアを伸ばす、若手の離職が年々増える、といった変化は、毎日見ている分にはほとんど気になりません。気づいた時には、自社が”ゆで上がる寸前”になっている、ということが起こり得ます。

具体例:ある小売店のケース

少し具体的な例で考えてみましょう。

街の小さな書店を経営している経営者がいたとします。10年前から、出版業界の縮小、ネット書店の台頭、電子書籍の普及といったニュースは耳にしていました。しかし、自店の売上は緩やかに減ってはいるものの、まだ赤字ではない。常連のお客様もいる。「うちは地域密着でやっているから大丈夫」と、特に大きな手は打たずに営業を続けてきました。

ところが、ここ2〜3年で売上の落ち込みが急加速。常連だった高齢のお客様が来店されなくなり、若い世代はそもそも本を紙で買わない。気づけば、月の家賃を払うのもやっとの状態に。

ここで初めて、「カフェ併設にするか」「セレクトショップ化するか」「オンライン販売を始めるか」と検討を始めたのですが、いざ動こうとすると、改装資金もない、新しいことを学ぶ気力も時間もない、相談できる人脈もない。結局、何も着手できないまま閉店、という結末になってしまう、という話です。

このケースで重要なのは、「変化のサインは10年前から出ていた」という点です。緩やかに売上が減り始めた段階で、まだ体力があるうちに小さく試行錯誤を始めていれば、まったく違う未来があったかもしれません。

では、どうすればよいのか ― 具体的な行動提案

ここまで読んで「うちは大丈夫だろうか」と少し不安になった方もいらっしゃるかもしれません。ですが、ご安心ください。手遅れになる前に動き出すための方法はあります。以下、経営者の方にぜひ取り組んでいただきたい4つの行動を挙げます。

1.「定点観測」の指標を決めて、月次で見る

売上や利益だけでなく、「客数の推移」「新規顧客の比率」「主要顧客の年齢構成」「従業員の平均年齢」「離職率」など、変化の予兆を捉えやすい指標をいくつか決めて、毎月確認する習慣をつけてください。

数字は嘘をつきません。3か月、半年、1年と並べて見ることで、肌感覚では気づきにくい”じわじわした変化”を可視化することができます。

2.業績が良いうちに「次の柱」の種をまく

本業が好調なときこそ、新しい取り組みに投資する絶好のタイミングです。「儲かっているのに、なぜわざわざ新しいことを?」と思われるかもしれませんが、本業に余裕があるからこそ、失敗を許容できるのです。

売上の数パーセントでよいので、新規事業や新しい取り組みのための「探索予算」を毎年確保することをおすすめします。

3.外部の目を定期的に入れる

社内だけで考えていると、どうしても視野が狭くなります。同業他社の経営者との交流、異業種交流会、商工会議所のセミナー、専門家への相談など、外部の視点に触れる機会を意識的に作ってください。

「井の中の蛙、大海を知らず」ということわざがありますが、経営においては「井の中の蛙、井戸が枯れかけていることに気づかず」という事態が、本当に起こります。

4.小さく試して、小さく失敗する

いきなり大きな変革をする必要はありません。むしろ、小さな実験を数多く繰り返すことが大切です。新商品を1つ試す、SNSを始めてみる、新しい仕入先と少量だけ取引してみる、といった小さな挑戦を積み重ねていくことで、いざ大きな変化が必要になったときに、慌てずに動ける素地ができていきます。

おわりに

「変わらざるを得ない状況になってから変わる」のは、いわば崖から落ちながらパラシュートを縫っているようなもので、間に合えばラッキー、間に合わなければ……というギャンブルになってしまいます。

一方、業績が安定しているときに少しずつ変化に取り組んでいくのは、地道で、時には「なんでこんなことしてるんだろう」と感じることもあるかもしれません。しかし、その積み重ねが、いざという時に会社を守る最大の保険になります。

「最近、なんとなく嫌な予感がする」「数字には出ていないけれど、現場の空気が変わった気がする」――そんな違和感を覚えたら、それこそが動き出すべきサインかもしれません。手遅れになる前に、ぜひ一歩を踏み出していただければと思います。

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