ECRSで業務改善の進め方 ──「なんとなく忙しい」から抜け出すための、見える化と4つの問いかけ

「毎日バタバタしているのに、夕方になると今日何をしたのか思い出せない」。 そんな経験はありませんか。

仕事の量は減らないのに、成果はなかなか増えない。残業は当たり前で、休みの日もどこか頭の片隅に仕事が居座っている。本人たちはみんな真面目に働いているのに、なぜか組織全体がぐったりしている──。これは特定の会社だけの話ではなく、多くの職場でよく見られる風景です。

こうした「忙しいのに進まない」状態を抜け出すための、とても便利な考え方があります。それが今回ご紹介する ECRS(イクルス) です。名前は少し難しそうですが、中身は驚くほどシンプルで、特別な道具も専門知識もいりません。

ただし、ECRSをいきなり使い始める前に、ぜひやっていただきたい大切な準備があります。それが「業務の見える化」です。この記事では、まず業務をどう見える化するか、そのうえでECRSをどう当てていくかを、できるだけやさしい言葉でご説明していきます。


ECRSとは:業務を見直す「4つの問いかけ」

まず、ECRSそのものを簡単にご紹介します。ECRSとは、仕事の進め方を改善するときに使う4つの視点の頭文字をとったものです。要するに、目の前の作業に対して順番に4つの質問を投げかけていくだけです。

  • E(Eliminate/なくす):「そもそも、この作業はやめられないか?」
  • C(Combine/まとめる):「別々にやっている作業を、ひとつにまとめられないか?」
  • R(Rearrange/並べ替える):「順番や担当、場所を入れ替えたら、楽にならないか?」
  • S(Simplify/簡単にする):「もっと単純な方法に変えられないか?」

たったこれだけです。「なくす・まとめる・並べ替える・簡単にする」。日本語にしてしまえば、意味がわかる言葉ばかりです。そして、これらは E → C → R → S の順番で考えるのが基本です(理由は後ほどご説明します)。

ただ、です。この4つの問いは強力なのですが、問いを当てる「対象」がぼんやりしていると、うまく効きません。「ムダをなくそう」と意気込んでも、どこに何のムダがあるのかが見えていなければ、手の打ちようがないのです。

そこで先に必要になるのが、次の章でお話しする「見える化」です。


その前に:業務を「見える化」する ──だれが・何を・何のために

改善の第一歩は、効率化のテクニックではありません。いま自分たちが何をやっているのかを、書き出して目に見える形にすることです。これを「業務の洗い出し」「業務の見える化」と呼びます。

やり方はシンプルで、ひとつの仕事の流れ(業務フロー)を、最初から最後まで紙やホワイトボードに並べていきます。そのとき、各ステップについて次の3つを書き添えるのがコツです。

  • だれが:その作業を担当しているのは誰か
  • 何を:具体的に何をしているのか
  • 何のために:その作業は、何のためにあるのか(目的)

この3つ目、「何のために」がいちばん大切です。 というのも、業務を書き出していくと、たびたびこんな場面に出くわすからです。

「この作業、何のためにやってるんでしたっけ?」 「……えーと、前任者から引き継いだので……」 「前任者の方は、何のために?」 「さあ……」

実はこの「目的を誰も答えられない作業」こそ、改善の宝の山です。目的が説明できない仕事は、後ほど登場するE(なくす)の最有力候補になります。見える化とは、こうした“正体不明の作業”を炙り出す工程なのです。

なお、見える化を始めると「うちはちゃんと整理されているはず」と思っていた社長ほど、出てきたフロー図の長さに驚かれることがあります。頭の中で思っている業務と、現場で実際に流れている業務は、別物であることが少なくありません。だからこそ、書き出して目で見ることに意味があるのです。


なぜ「順番」が大切なのか

業務が見えてきたら、いよいよECRSの出番です。ここで改めて、なぜ E → C → R → S の順番 で考えるのかをご説明します。

改善というと、多くの人がいきなり最後の「S(簡単にする)」から手をつけがちです。「この作業をもっと効率よくやるには?」と。気持ちはよくわかります。

ですが、これにはちょっとした落とし穴があります。たとえるなら、穴の空いたバケツを必死で磨いているようなものです。ピカピカに磨き上げても、底に穴が空いていれば水は漏れ続けます。それよりまず、「このバケツ、本当に必要だっけ?」と問うほうが先なのです。

だからこそ、最初に来るのは「E(なくす)」です。もしその作業を丸ごとやめられるなら、それ以上の改善はありません。効率化するまでもなく、ゼロになるのですから。次に「C(まとめる)」、その次に「R(並べ替える)」、そして最後に「S(簡単にする)」。インパクトの大きい順に考えていく、というわけです。

見える化で書き添えた「何のために」が、ここで効いてきます。目的のはっきりしない作業はEで消える候補、似た目的の作業はCでまとまる候補、というように、フロー図がそのまま改善のヒント集になるのです。


具体例:毎週月曜の「定例会議」を、見える化してから見直す

では、実際の場面で考えてみましょう。多くの会社にありそうな、ごく一般的な例として「毎週月曜の朝の定例会議」を取り上げます。

ステップ1:まず流れを書き出す(見える化)

いきなりECRSをかけず、まずは流れを「だれが・何を・何のために」で書き出してみます。

  1. 各自が/前日に資料を作成する/何のために? → 報告のため
  2. **全員(10人)**が/会議室に集まる(1時間)/何のために? → 顔を合わせるため?
  3. 各自が順番に/先週やったことを口頭で報告する/何のために? → 情報共有のため
  4. 上司が/その場でコメントする/何のために? → 状況把握のため

こうして並べてみると、早くも「2の“顔を合わせるため”って、それだけのために10人×1時間?」という違和感が見えてきます。見える化の効果です。

ステップ2:ECRSの4つの問いを当てる

流れが見えたところで、順番に問いかけます。

  • E(なくす):目的が曖昧な「集まること自体」はなくせないか。報告だけなら全員集合は不要かもしれません。少なくとも隔週化や、報告だけの人の出席免除はできそうです。
  • C(まとめる):水曜に似た打ち合わせがあるなら、ひとつに統合できないか。
  • R(並べ替える):報告は事前にチャットやメモで共有し、会議では「相談したいこと」だけに集中する。「報告は文章で、議論は対面で」と役割を入れ替えます。
  • S(簡単にする):報告フォーマットを「先週やったこと・今週やること・困っていること」の3行に固定する。

この流れで見直すと、「なんとなく続いていた1時間の会議」が「15分の打ち合わせ+事前の3行メモ」に生まれ変わったりします。浮いた時間を全員分・毎週分で計算すると、なかなかの大きさになるはずです。

ここでいちばん勇気がいるのは、最初の「この会議いりますか?」を口に出すことです。長年続いたものほど言い出しにくいものですが、その一言が言える職場こそ、改善が進む職場だと言えます。


ECRSを使うときの3つのコツ

最後に、実際に取り組むときのちょっとしたコツをお伝えします。

1. 小さく始める。ただし“流れ”ごと見る いきなり会社全体を変えようとすると、必ず疲れて挫折します。まずは身近な業務ひとつから。とはいえ、その一作業だけを切り取るのではなく、前後のつながり(だれから来て、だれに渡すのか)まで含めて見える化すると、本当のムダが見つかりやすくなります。

2. 「やめる」を悪者にしない 「やめる=サボり」ではありません。やめてよい仕事を見つけ出すのは、立派な仕事です。「これ、やめても誰も困らなくない?」という気づきを、堂々と褒め合える空気をつくりましょう。

3. 現場の声を必ず聞く その作業をいちばんよく知っているのは、毎日それをやっている人です。見える化も改善案づくりも、現場の人と一緒に進めるのが近道です。


まとめ:見える化してから、4つの問いを

業務改善は、難しい理論でも高価なシステムでもありません。手順はとてもシンプルです。

  1. まず業務を 見える化 する ──だれが・何を・何のために
  2. そのうえで E → C → R → S の順に問いかける ──なくす・まとめる・並べ替える・簡単にする

順番が逆になって、見える化を飛ばしていきなり効率化に走ると、穴の空いたバケツを磨き続けることになりかねません。まずは身近な業務ひとつを書き出し、「何のために?」と問うてみてください。そこから、改善は静かに動き出します。

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