仕事をしていると、うまくいかないことは必ずあります。見積もりを出したのに選ばれなかった。提案が通らなかった。面接で不採用になった。常連のお客様が急に来なくなった。
そんなとき、多くの人は「縁がなかった」「タイミングが悪かった」と自分に言い聞かせて、次へ進もうとします。気持ちを切り替えることは大切です。ただ、その前にひとつだけやってほしいことがあります。
それは、「なぜダメだったのか」を相手に聞いてみることです。
この記事では、失敗の理由を聞くことにどんな価値があるのか、どう聞けば答えてもらいやすいのか、聞いた内容をどう活かせばよいのかを、できるだけわかりやすくお伝えします。経営者の方はもちろん、営業職の方、就職・転職活動中の方にも役立つ内容です。
失敗したとき、多くの人は理由を聞かずに終わらせてしまう
「ダメでした」という連絡を受けたとき、理由まで聞く人は意外と少ないものです。そこにはいくつかの気持ちが隠れています。
聞かない理由は「気まずさ」と「怖さ」
理由を聞かない背景には、だいたい次のような気持ちがあります。
- 気まずい:断った相手に、さらに質問するのは気が引ける
- 迷惑をかけたくない:相手の時間を取らせるのは申し訳ない
- 傷つきたくない:はっきりダメ出しされるのが怖い
- しつこいと思われたくない:未練がましい人だと思われそう
どれも自然な気持ちです。特に「傷つきたくない」はとても人間らしい感情です。わざわざ自分から「私のどこが悪かったですか?」と聞きに行くのは、なかなか勇気がいります。
聞かないままだと、同じ失敗を繰り返しやすい
ところが、理由を聞かないままにしておくと、困ったことが起こります。原因がわからないので、自分で想像した理由をもとに対策を立ててしまうのです。
想像が当たっていれば問題ありません。しかし、外れていた場合は、見当違いの努力を続けることになります。的の場所を知らないまま、一生懸命に矢を放ち続けるようなものです。
聞いてみると、2〜3割くらいは教えてくれる
「でも、聞いたところで本当のことなんて教えてくれないでしょう?」と思う方もいるかもしれません。
たしかに、全員が教えてくれるわけではありません。「総合的に判断しました」「今回はご縁がなかったということで」とやんわり返されることも多いです。
それでも、丁寧に聞いてみると、体感として2〜3割くらいの人は、何かしらの理由を教えてくれます。これは統計的な数字ではなく、あくまで「聞いてみるとそのくらいは答えてもらえることが多い」という目安です。
2〜3割と聞くと少なく感じるかもしれませんが
10回聞いて2〜3回。少ないと感じるでしょうか。
野球で考えてみてください。打率3割のバッターは、一流と呼ばれます。10回打席に立って7回凡退しても、3回ヒットを打てば立派なものです。理由を聞く「打率」も、2〜3割あれば十分に一流の成績と言えます。
しかも、理由を聞くことに失敗しても、失うものはほとんどありません。すでに結果は出ているのですから、それ以上悪くなることはまずないのです。聞ければラッキー、聞けなくても元どおり。そう考えると、打席に立たない理由はあまりありません。
理由を知ると、何が得られるのか
では、理由を教えてもらえたら、どんな良いことがあるのでしょうか。
自分では気づけない改善点がわかる
自分のことは、自分が一番見えにくいものです。資料が読みにくい、説明が長い、返信が遅いといった点は、本人はなかなか気づけません。相手の目から見た率直な感想は、どんなに高価な研修よりも具体的なヒントになることがあります。
「思い込み」を外せる
失敗したとき、人は理由を決めつけがちです。「きっと価格が高かったんだ」「自分の実力が足りなかったんだ」。しかし、実際に聞いてみると、まったく別の理由だったということは珍しくありません。
思い込みを外せると、本当に直すべきところに力を集中できます。
相手との関係が続くことがある
意外かもしれませんが、断られた後に丁寧に理由を聞くと、相手に良い印象が残ることがあります。「この人は結果を真剣に受け止めて、改善しようとしているんだな」と感じてもらえるからです。その結果、「次の機会にはまた声をかけよう」と思ってもらえることもあります。
具体例:見積もりで選ばれなかったリフォーム会社
ここで、よくある場面を例に考えてみます。
たとえば、地域で小さなリフォーム会社を営んでいるAさんがいるとします。あるお客様からキッチンリフォームの相談を受け、現地を見て見積もりを出しました。しかし数日後、「今回は他社さんにお願いすることにしました」と連絡がありました。
Aさんは考えます。「うちは材料にこだわっているから、どうしても価格が高くなる。やっぱり値段で負けたんだろう。次からは少し値引きして出そうか……」
ここでAさんが値下げを決める前に、お客様にこう聞いてみたとします。
「ご連絡ありがとうございます。今後の参考にさせていただきたいので、もしよろしければ、決め手になった点を一言だけでも教えていただけないでしょうか。」
すると、お客様から次のような答えが返ってきました。
「金額はそれほど差がなかったんです。ただ、見積もりが届くまでに2週間かかったのと、見積書に専門用語が多くて、何にいくらかかるのかよくわからなかったので……」
Aさんにとっては驚きの答えです。負けた理由は価格ではなく、「スピード」と「わかりやすさ」だったのです。
もし理由を聞かずに値下げしていたら、どうなっていたでしょうか。利益が減るうえに、本当の問題である「見積もりが遅い」「見積書がわかりにくい」はそのまま残ります。次のお客様にも同じ理由で選ばれず、また値下げを考える……という、財布にも心にも優しくない悪循環に入ってしまうかもしれません。
理由がわかったAさんは、見積もりを1週間以内に出すルールを決め、見積書には「これは何のための費用か」を一言ずつ添えるようにしました。値下げをしなくても、選ばれる可能性を高める手を打てたわけです。
理由を教えてもらいやすくする聞き方
同じ質問でも、聞き方次第で答えてもらえる確率は変わります。ここでは、相手が答えやすくなるポイントを紹介します。
1. 結果を聞いたらなるべく早めに聞く
時間がたつほど、相手の記憶は薄れていきます。また、相手もその件を「終わったこと」として頭から追い出してしまいます。結果の連絡を受けたその場か、遅くとも数日以内に聞くのがおすすめです。
2. 「結果を覆したいわけではない」と伝える
相手が理由を話したがらない一番の原因は、「理由を言ったら、反論されたり、再提案されたりするのでは」という警戒心です。
そこで、「結果はもちろん受け止めています。今後の改善のために伺いたいだけです」と最初に伝えると、相手は安心して話しやすくなります。
3. 短く、答えやすい質問にする
「どこが悪かったですか?」と漠然と聞かれると、相手も何から話せばよいか困ってしまいます。答える負担を減らす工夫をしましょう。
- 「一言だけでも」と付け加える
- 「価格、内容、対応スピードなど、どのあたりが大きかったでしょうか」と選択肢を示す
- 「もし一つだけ直すとしたら、どこでしょうか」と絞って聞く
4. 相手に合った手段を選ぶ
電話で直接聞くと答えやすい人もいれば、メールのほうが落ち着いて書ける人もいます。相手とのこれまでのやりとりに合わせて選ぶとよいでしょう。
参考までに、メールで聞く場合の文例を載せておきます。
「このたびはご検討いただき、ありがとうございました。結果については承知いたしました。今後のサービス改善のため、もし差し支えなければ、ご判断のポイントを一言だけでもお聞かせいただけますと幸いです。もちろん、ご返信は不要でも構いません。」
最後の「ご返信は不要でも構いません」がポイントです。相手に逃げ道を用意しておくことで、かえって答えてもらいやすくなります。
理由を聞くときの注意点
せっかくの機会を台無しにしないために、気をつけたい点があります。
言い訳や反論をしない
理由を聞いたら、たとえ納得できない内容でも、まずは「教えていただきありがとうございます」と受け止めましょう。「いえ、それは誤解でして……」と反論を始めると、相手は「やっぱり言わなければよかった」と感じてしまいます。理由を聞く場は、裁判ではありません。判決に不服を申し立てる場所ではないのです。
一人の意見をすべてだと思わない
教えてもらった理由は、あくまでその人の感じ方です。一件の意見だけで、商品やサービスを大きく変えてしまうのは危険です。似た理由が何度も出てくるかどうかを見ながら判断しましょう。
答えてもらえなくても気にしない
7〜8割は答えてもらえない前提で聞くのですから、答えがなくても落ち込む必要はありません。相手にも事情があります。「今回は教えてもらえなかったな」くらいに受け止めて、次に進みましょう。
しつこく聞かない
聞くのは一度だけにしましょう。返事がないからといって何度も催促すると、せっかくの丁寧な印象が崩れてしまいます。
聞いた理由を改善につなげる方法
理由を教えてもらっても、聞いて満足してしまってはもったいないです。次の手順で改善につなげましょう。
記録を残す
聞いた内容は、簡単でよいので記録しておきます。記録する項目は、次の程度で十分です。
- 日付
- 相手(会社名や案件名など)
- 教えてもらった理由
- 自分が考えた対策
ノートでも、スマートフォンのメモでも、表計算ソフトでも構いません。大事なのは続けることです。
傾向を見る
記録がいくつかたまったら、見返してみましょう。「返信が遅い」「説明がわかりにくい」など、同じような理由が繰り返し出てくるなら、それは優先して直すべき課題である可能性が高いです。
すぐ直せるものから手をつける
課題が見えたら、「すぐに直せるもの」と「時間がかかるもの」に分けます。返信のスピードや資料の書き方などは、明日からでも変えられます。まずは小さな改善から始めて、効果を確かめながら進めるのがおすすめです。
仕事以外の場面でも使える考え方
ここまで商談を中心にお話ししてきましたが、この考え方はさまざまな場面で使えます。
- 採用面接:不採用の理由を聞ける場合は聞いてみる(企業の方針で答えられないこともあります)
- 社内の企画:却下されたら、上司にどこを直せば通りやすくなるかを聞いてみる
- お店の運営:来なくなった常連さんに会えたら、さりげなく感想を聞いてみる
どの場面でも共通するのは、「失敗を、相手からのヒントに変える」という姿勢です。
まとめ:失敗は「聞けば」情報に変わる
最後に、この記事のポイントを振り返ります。
- 失敗したとき、理由を聞かずに終わらせる人は多い
- 丁寧に聞けば、2〜3割くらいの人は理由を教えてくれる
- 理由がわかると、思い込みを外して本当の課題に取り組める
- 「結果を覆す気はない」と伝え、短く答えやすい質問にするのがコツ
- 聞いた理由は記録し、傾向を見て、すぐ直せるものから改善する
失敗は、そのままにしておけばただの残念な出来事です。しかし、理由を一つ聞くだけで、次の成功につながる貴重な情報に変わります。
次に「ダメでした」という連絡を受けたときは、ほんの少しだけ勇気を出して、「よろしければ、理由を教えていただけませんか」と聞いてみてください。聞ければラッキー。そのラッキーが、あなたの仕事を一歩前に進めてくれるはずです。

ミタスサポート事務所代表。富山県で中小企業向けに経営とIT支援を行っています。
中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。
小さな事業者向けに小回りの利くITサービスやサイバーセキュリティ対策に力を注いでいます。

