マネジメントの基本は、部下のスケジュールを把握することです ―「今どこで何を」が見えるだけで、チームは変わります

「Aさんって、今どこにいますか」

社内でこの質問が飛び交う会社は、意外とたくさんあります。聞かれたほうも「たしか午前中は外に出ていたような……」と曖昧に答え、結局は本人の携帯に電話をかけて確認する。この数分のやり取りが、一日に何度も繰り返されています。

マネジメントというと、目標設定や評価、動機づけといった難しい話が思い浮かびます。ですが、その手前にもっと基本的なことがあります。部下が今日どんな作業をしていて、午前中はどこにいるのか。この程度のざっくりした情報を、チーム全員が把握できている状態を作ることです。

この記事は、部下を持ったばかりの方や、少人数の組織で「なんとなく回っているけれど、時々ヒヤリとする」と感じている方に向けて書いています。難しい仕組みは出てきません。

「今日、誰が、どこで、何を」が分からないと、何が起きるのか

電話一本のために、社内で三人が動きます

お客様から問い合わせの電話が入ったとします。担当者が不在のとき、対応した人は「席を外しております」としか言えません。いつ戻るか分からないので、折り返しの約束もできない。

そこで、隣の人に聞き、上司に聞き、それでも分からず本人に電話をかける。たった一本の電話に、社内で三人が数分ずつ使うことになります。一人ひとりの損失は小さくても、これが毎日続けば、それなりの量です。

お客様の側から見れば、「あの会社は誰に聞いても要領を得ない」という印象だけが残ります。

仕事を頼む先が、いつも同じ人になります

急ぎの依頼が入ったとき、上司は「今、手が空いていそうな人」に頼みます。ところが、誰が何をしているか分からなければ、判断材料は印象だけです。

結果として、いつも席にいる人、断らない人にばかり仕事が集まります。本人は文句を言わないので、上司は偏りに気づきません。気づくのは、その人が辞意を伝えてきたときです。

外出が多い人が実は暇そうに見え、机にいる人が実は修羅場だった、というすれ違いも起こります。見えていないというのは、そういうことです。

何かあったときに、気づくのが遅れます

これがいちばん大事な理由かもしれません。

外出先で体調を崩した、事故に遭った、あるいは客先で深刻なトラブルを抱えて動けなくなっている。そんなとき、「今日はどこに行っているはずだ」という情報がなければ、異変にすら気づけません。

会社には、従業員が安全に働けるよう配慮する責任があります。所在の把握は、管理のための管理ではなく、人を守るための最低限の備えです。

「把握」といっても、分単位で追う必要はありません

ここを誤解すると、話が一気にややこしくなります。

必要なのは「午前・午後」くらいの粗さです

求めるのは、次の程度の情報で十分です。

  • 今日は社内にいるのか、外に出るのか
  • 外出なら、おおよそどのあたりで、何時ごろ戻るのか
  • 今日の中心になる作業は何か

「10時15分から10時40分まで移動」といった精度は要りません。書くほうも見るほうも疲れるだけで、続きません。粗くていいので、全員分がそろっていることのほうがずっと価値があります。

自律的に働くことと、居場所を隠すことは別の話です

「細かく報告させると、自分で考えて動かなくなるのでは」という心配はもっともです。実際、進め方まで逐一指示すれば、指示待ちの人が育ちます。

ですが、どこで何をしているかを共有することは、自律性とぶつかりません。むしろ逆です。周りが所在を把握できていれば、本人がいちいち報告や許可を求めなくても、周囲が判断して動けるようになります。

自律とは、勝手に消えることではなく、周りが安心して任せられる状態のことです。行き先を伝えてから出かけるのは、独立した大人の作法でもあります。

見せる相手は、上司だけではありません

意外と見落とされがちですが、この情報がいちばん必要なのは、電話を取る人や、他部署から問い合わせを受ける人です。

上司だけが把握している状態は、上司が不在になった瞬間に機能しなくなります。チーム全員が見られる形にしておくことが大切です。

具体例で考えてみます

社員が十名ほどの、機械部品を扱う販売会社を想像してみます。あくまで一般的な例として読んでください。

営業担当が三名、事務が二名、あとは倉庫と経理。営業は毎日外に出ていますが、行き先は本人の手帳の中だけにあります。

事務のCさんは、日に何度も同じやり取りをしています。お客様から電話が入る、担当者が不在、戻り時間が分からない、とりあえずメモを残す。担当者が夕方に帰社して、そこから折り返す。急ぎの案件だと、この数時間が命取りになることもあります。

そこで、事務所の入り口に一枚のホワイトボードを置き、朝いちばんに各自が三つだけ書くことにしました。

  1. 今日の主な行き先(地域名程度)
  2. 帰社予定の時間
  3. 今日の中心となる作業

これだけで、Cさんは「本日は午後三時ごろに戻る予定です」と即答できるようになります。担当者を待たずに、他の営業が代わりに動けることも増えます。

ちなみに、この手のボードには、いつの間にか消し忘れが住みつきます。半年前から「直帰」のままの人を見つけたら、それは仕組みが形だけになった合図です。書く手間より、消す手間のほうが忘れられやすいものだと心得ておくと安全です。

見える化のやり方は、三つのうちどれか一つで十分

ホワイトボードや一覧表

少人数で、全員が毎朝同じ場所に集まる職場ならこれが最速です。導入コストはほぼゼロ。ただし、外出先からは更新できません。

共有カレンダーやチャット

外出が多い、あるいは拠点が分かれているならこちらです。予定を入れる場所が一か所に決まっていること、そして全員が見られる設定になっていることが条件です。

「共有しているつもりで、実は本人しか見られない設定だった」というのは、驚くほどよくある話です。

朝礼や朝の短い共有

一人あたり十数秒で、今日の行き先と主な作業を言うだけ。特別な道具が要らず、聞いている全員の頭に入るのが強みです。

言葉は流れて消えるので、書き残す仕組みと組み合わせられればなお安心です。

大切なのは「一か所に決める」こと

三つとも真面目にやろうとすると、必ず破綻します。ホワイトボードとカレンダーで内容が食い違い、どちらが正しいか分からなくなるからです。

正解は一つに決めること。二重管理は、管理していないのとほとんど同じ結果になります。

定着させるための三つのコツ

書く項目を増やさない

行き先、戻り時間、主な作業。この三つから始めます。運用が回り始めてから必要なら足せばよく、最初から欄が十個ある表は、二週間で空欄だらけになります。

予定が変わったら更新する、を当たり前にする

現場では予定が変わります。大切なのは、変わったときにひと言入れる習慣です。「変更を伝えても怒られない」という空気があるかどうかが、そのまま情報の正確さになります。

予定変更を報告した人を責めれば、次からは誰も更新しなくなります。

上司が最初に書く

自分の予定は伏せたまま部下にだけ求めれば、監視だと受け取られても仕方ありません。

管理職が率先して「今日は午前中〇〇社、午後は社内で見積作成」と書く。それだけで、これは監視ではなく全員のための情報共有だ、というメッセージが伝わります。

職場によって、ちょうどよい形は変わります

在宅勤務がある職場では、所在よりも「連絡がつく時間帯」のほうが重要になります。現場作業が中心なら、個人単位より現場単位で管理したほうが実態に合います。全員が同じ部屋にいる数名の会社なら、わざわざ表を作らなくても声かけで足りるかもしれません。

形式は自由です。判断の基準はただ一つ、「今日、誰がどこで何をしているかを、本人以外の誰かが答えられるか」。この問いに答えられるなら、方法は何でも構いません。

まとめ

部下のスケジュールを把握するというのは、細かく監視することではありません。今日どこにいて、何をしているかという、ごく粗い情報を全員が見られるようにしておくことです。

始めるなら、明日からこれだけで十分です。

  1. 行き先、戻り時間、主な作業の三つを書く場所を、一か所だけ決める
  2. 朝いちばんに、全員が書く(または口頭で共有する)
  3. 上司が最初に自分の予定を書く

自律的に動ける人ほど、行き先をきちんと共有します。見える化は、その人たちが気持ちよく動くための土台でもあります。

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