ペーパーレス化の本質 〜紙をなくすことがゴールではありません〜

「うちもそろそろペーパーレス化を進めないと」――このようにお考えの経営者の方は、年々増えているのではないでしょうか。世間ではDXという言葉が飛び交い、補助金の案内も届き、取引先からも電子データでのやり取りを求められる機会が増えてきました。

ところが、いざペーパーレス化に取り組んでみると、「思っていたほど業務が楽にならない」「むしろ手間が増えた気がする」「結局、印刷して確認している」といった声をよく耳にします。

なぜ、こうしたことが起きるのでしょうか。今回は、ペーパーレス化の本当の意味と、取り組む際に押さえておきたい考え方についてお話しします。

ペーパーレス化は「コスト削減策」ではありません

まず、最初に申し上げたいことがあります。ペーパーレス化を「紙代やインク代を減らすための取り組み」と捉えてしまうと、得られる効果は限定的になります。

確かに、紙を使わなくなれば用紙代やトナー代は減ります。書類を保管するキャビネットも不要になり、オフィスのスペースに余裕が生まれるかもしれません。しかし、こうした直接的なコスト削減効果は、実はそれほど大きくありません。中小企業の場合、年間で数万円から数十万円といったところでしょう。

「数十万円も浮けば十分じゃないか」と思われるかもしれませんが、ペーパーレス化に取り組む本当の価値は、別のところにあります。それは業務そのものを見直し、組織の働き方を変えていくという点です。

パソコンは「何のためのツール」でしょうか

ここで、少し視点を変えてみましょう。みなさんの会社で使っているパソコンは、何のためのツールでしょうか。

実はこの問いに対する答えで、その会社が「紙の文化」なのか「ペーパーレスの文化」なのかが見えてきます。

紙の文化(ハンコ文化)の会社では、パソコンは「紙を作成するためのツール」です。Wordで文書を作り、Excelで表を作り、最後にプリントアウトして、ハンコを押して、ファイリングする。パソコンはあくまでも、紙という最終成果物を生み出すための便利な道具という位置づけです。

一方、ペーパーレスの会社では、パソコンは「業務を進めるためのツール」になります。文書はパソコンの中で作成され、共有され、確認され、承認され、保管される。業務の流れそのものが、パソコンとネットワークの上で完結していくのです。

この違いは、見た目には小さく感じられるかもしれませんが、実は決定的な違いです。なぜなら、業務の主役が「紙」なのか「データ」なのかという、根本的な違いだからです。

「印刷してはいけない」という話ではありません

ここで、一つ誤解されやすい点について触れておきます。

ペーパーレス化というと、「紙を一切使ってはいけない」「印刷したら負け」というイメージを持たれる方がいらっしゃいますが、これは少し極端な捉え方です。

正直に申し上げて、ディスプレイで文書を確認するのは、紙で確認するよりも見づらいことが多いものです。長い契約書を画面でじっくり読み込もうとすると、目が疲れますし、見落としも起きやすくなります。複数の書類を並べて比較したいとき、紙ならば机の上に広げれば一目瞭然ですが、画面ではそうもいきません。

ですから、確認のために印刷をすること自体は、まったく悪いことではありません。じっくり読みたいときは印刷して赤ペンを入れる、複数の資料を並べて比べたいときは紙に出してみる――これは効率的な働き方の一つです。

ただし、ここに大切なポイントがあります。そうして印刷された紙は、あくまでも「印刷した人が個人で使うためのもの」だということです。確認が終われば、その紙はもう役目を終えています。シュレッダーにかけても、メモ用紙にしても、構いません。

業務そのものは、データの上で進んでいきます。同じ書類を複数の人がそれぞれ印刷して確認することはあっても、それぞれの紙は個人利用にとどまり、組織としての業務の流れは紙を介していない――これがペーパーレス化された業務の姿です。

紙の文化との違いを整理すると、こうなります。紙の文化では、印刷された一枚の紙が組織の中を回っていきます。ペーパーレスの文化では、データが業務の本流にあり、紙は個人の確認作業のために一時的に使われるだけです。

ありがちな失敗例:「電子化された紙文化」

ここで、ある架空の中小企業の事例をご紹介します。

社員30名ほどのある会社が、ペーパーレス化に取り組むことにしました。複合機をリプレイスし、書類をスキャンしてサーバーに保存する仕組みを導入。これでよし、と思ったのも束の間、現場ではこんな光景が見られるようになりました。

経理担当者がPDF化された請求書を画面で開き、内容を確認し――そしてプリントアウトして上長のもとへ持っていく。上長は紙に印鑑を押し、それを再びスキャンしてサーバーに戻す。

おわかりでしょうか。「電子化された紙」を、わざわざ紙に戻して、また電子化しているのです。これでは作業が増えただけで、何のためのペーパーレス化なのか分かりません。

ここで先ほどの話を思い出してください。この会社では、印刷された紙が業務の本流になってしまっています。上長のハンコがその紙に押されることで、業務が次のステップに進んでいるのです。これは、印刷した紙が「個人の確認用」にとどまっているペーパーレスの姿とは、まったく違います。

ツールは導入したけれど、パソコンの位置づけは依然として「紙を作るための道具」のまま。これでは、いくらシステムを入れても業務は変わりません。

ペーパーレス化の本質は「業務改革」

ここまでお話しすれば、もうお気づきかと思います。ペーパーレス化の本質は、紙をなくすことではなく、業務の主役を紙からデータに移すことにあります。言い換えれば、パソコンを「紙を作る道具」から「業務を進める道具」へと位置づけ直す取り組みです。

業務の主役がデータになると、これまで紙の制約で諦めていたことができるようになります。同じ書類を複数の人が同時に確認できる、一瞬で過去の書類を検索できる、在宅でも出張先でも仕事を進められる、入力されたデータが自動で集計される――こうした働き方は、業務の本流が紙からデータに移って初めて実現するものです。

繰り返しになりますが、確認のために紙に印刷することは、まったく否定されることではありません。大事なのは、その紙が業務の本流に乗っているのか、それとも個人の確認作業のためだけのものなのか、という点です。

取り組み方の順序が大切です

では、具体的にどのように進めればよいのでしょうか。順序としては、次のような流れをおすすめします。

最初にすべきことは、現状の業務フローを書き出してみることです。請求書処理、経費精算、稟議申請、契約書管理など、紙が関わる業務を一つずつ、誰がどのタイミングで何をしているのか可視化します。この時点で「あれ、このハンコ、何のために押してたんだっけ?」という発見があるはずです。長年続いている業務には、そうした「儀式化した手順」が必ず潜んでいます。

次に、その業務がそもそも必要なのか、もっと簡単にできないかを考えます。ここを飛ばしていきなりツール導入に走ると、先ほどの「電子化された紙」のような事態を招きます。

そして最後に、残った業務に最適なツールを選ぶという順番です。世の中には便利なシステムがたくさんありますが、業務の整理ができていないと、どんなに高機能なツールも使いこなせません。

おわりに

ペーパーレス化は、単なる事務作業の効率化ではなく、会社の働き方そのものを見直す絶好の機会です。せっかく取り組むのであれば、紙を減らした先に「どんな働き方を実現したいのか」を考えていただきたいと思います。

パソコンを「紙を作る道具」から「業務を進める道具」へ。業務の本流を「紙」から「データ」へ。この転換こそが、ペーパーレス化の本質だと、私は考えています。

「うちの会社はどこから手をつければいいのか」とお悩みでしたら、まずは身近な業務フローを一つ、紙とペンで書き出してみるところから始めてみてください。ペーパーレス化の第一歩が、紙とペンから始まるというのも、なんだか不思議な話ではありますが。

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