少し変わったことを申し上げます。
業務アプリを導入するとき、私たちはつい「正しいアプリ」を探そうとします。多くの会社で使われている定評あるソフト、業界標準と呼ばれるシステム、機能が網羅されたパッケージ。「みんなが使っているから安心」「機能が揃っているから間違いない」――そう考えて選びます。
しかし、その「正しいアプリ」を導入した結果、現場で使われずに眠っている。気づけばまたExcelに戻っている。そんな経験はないでしょうか。
実は、IT化において本当に大切なのは、「正しいアプリ」を選ぶことではなく、「あなたが使いやすいアプリ」を持つことなのです。そして、生成AIの登場によって、この「使いやすいアプリを自分で作る」という選択肢が、現実的になってきました。
本記事では、なぜ「正しさ」よりも「使いやすさ」を優先すべきなのか、そしてそれがどのように可能になったのかを、できるだけわかりやすくお伝えします。
「正しいアプリ」の落とし穴
まず、これまで多くの会社が陥ってきた「正しいアプリ信仰」について考えてみます。
業務システムを検討するとき、私たちは無意識のうちに「正解」を探します。雑誌の比較記事を読み、導入事例を調べ、評価の高いソフトを選ぶ。これ自体は、決して悪いことではありません。
ただ、ここに大きな落とし穴があります。「多くの会社にとって正しい」ことと、「あなたの会社にとって使いやすい」ことは、必ずしも一致しないのです。
たとえば、ある人気の顧客管理ソフトは、入力項目が30個もありました。営業活動を分析するための、よくできた設計です。しかし、その会社の社員にとっては、項目が多すぎて入力が苦痛でした。結果、誰も入力しなくなり、ソフトは形骸化しました。
別の会社では、業界で評判の在庫管理システムを導入しました。機能は申し分なかったのですが、画面の操作が複雑で、ベテラン社員ほど嫌がりました。「前の紙の台帳のほうが早かった」という声が現場から上がり、いつの間にか並行運用になり、最後は紙だけが残りました。
これらは、決してソフトが「悪い」わけではありません。むしろ、よくできた、評価の高いソフトです。ただ、そのソフトの「正しさ」と、その会社の社員の「使いやすさ」が、噛み合わなかっただけなのです。
「使いやすさ」は、人によって違う
ここで大切なのは、「使いやすさ」というものが、極めて個人的で、文脈に依存するものだということです。
ある人にとっては「項目が多くて細かく記録できるアプリ」が使いやすく、別の人にとっては「項目が三つだけで、サッと入力できるアプリ」が使いやすい。ある会社では「すべての情報が一画面に並んでいる」のが好まれ、別の会社では「画面が分かれていて段階的に進む」のが好まれる。
これは、社員の年齢構成、ITへの慣れ、業務の流れ、組織の文化など、さまざまな要素で変わります。「客観的に正しい使いやすさ」というものは、実は存在しないのです。
ところが、市販のソフトは「最大公約数的な使いやすさ」しか提供できません。多くの会社にそれなりに合うように作られているため、どの会社にとっても「ちょっと違う」ものになってしまうのです。
生成AIが変えた、「使いやすさ」の手に入れ方
ここに、生成AIという新しい選択肢が登場しました。
最近の生成AIは、プログラミングの知識がなくても、日本語で指示するだけで動くアプリを作ってくれるようになっています。たとえば、こんなふうに伝えるだけです。
「電話応対のメモを残すアプリを作ってください。入力項目は、お客様の名前と用件だけにしてください。とにかく入力が早いことを優先したいです」
これだけで、生成AIは実際に動くアプリを作ってくれます。使ってみて「やっぱり折り返し電話番号も入れたい」と思えば、その場で追加してくれます。「文字が小さくて見づらい」と言えば、大きくしてくれます。「ベテラン社員から、ボタンの色がわかりにくいと不評で」と相談すれば、色を変えてくれます。
例えるなら、優秀なシステム開発者がすぐ隣に座っていて、こちらのワガママを次々に聞いてくれるようなものです。しかも、何度修正をお願いしても嫌な顔ひとつせず、文句も言わない。実に頼もしい存在です。
つまり、これまで「市販のソフトに、自分たちを合わせる」しかなかったのが、「自分たちに、アプリを合わせる」ことができるようになったのです。
「使いやすい」を優先することの、本当の意味
ここで誤解のないようにお伝えしたいのは、「使いやすさを優先する」というのは、「ラクをする」とか「機能を削る」という意味ではない、ということです。
本当の意味は、「実際に使われるものを作る」ということです。
どれほど優れたソフトでも、社員が使わなければ、効果はゼロです。逆に、機能が少なくても、社員が毎日使ってくれるアプリは、確実に成果を生みます。
たとえば、ある会社で「電話応対のメモを共有するアプリ」を作ったケースがありました。最初、経営者は「せっかく作るなら、顧客分析もできるようにしたい」と考えました。しかし、現場の声を聞くと「とにかく入力が早いことが一番」「分析より、伝言が確実に届くことが大事」という意見でした。
そこで、機能を絞り込み、入力項目は四つだけ、ボタンも最小限のシンプルなアプリにしました。経営者から見れば、物足りないアプリです。しかし、社員は使ってくれました。毎日使われた結果、半年後には電話応対の記録が大量に蓄積され、「実は、こういうお問い合わせが多かったのか」という気づきにつながりました。
最初から立派な分析機能を盛り込んでいたら、おそらく誰も使わず、データも貯まらなかったでしょう。「使いやすさを優先したからこそ、結果的に成果が出た」のです。
あなたが「使いやすい」と感じるものを、堂々と作る
ここで、もう一つお伝えしたいことがあります。
自分たちで作ったアプリを見て、「こんな簡単なもので、いいのだろうか」「もっと立派なものにしないと、恥ずかしいのではないか」と感じる方がいらっしゃいます。市販のソフトと比べると、機能も見た目も見劣りするように感じるからです。
しかし、心配は無用です。そのアプリは、あなたとあなたの会社の社員のために作ったものであって、誰かに評価されるためのものではありません。
たとえば、入力ボタンが大きくて、画面いっぱいに「電話メモ!」とだけ書いてあるアプリ。普通のソフトの感覚で見れば「子供っぽい」かもしれません。しかし、忙しい現場で、誰でも一目で操作できるなら、それが正解です。
たとえば、項目が「お客様名」と「内容」の二つしかないアプリ。市販のソフトの感覚で見れば「機能が足りない」と思うかもしれません。しかし、社員が毎日入力してくれて、データが貯まっていくなら、それが正解です。
人の評価ではなく、自社の現場の評価で、アプリの良し悪しを決めていいのです。これは、生成AIで自分専用のアプリが作れるようになって、初めて手に入った自由だと思います。
始めるときの心得
最後に、これから取り組もうとされる方への、ささやかな心得をお伝えします。
一つ目は、「正しさ」より「使いやすさ」を優先することです。立派な機能より、毎日使い続けられる気軽さのほうが、最終的には大きな成果につながります。
二つ目は、実際に使う人の声を聞くことです。経営者や管理職の頭の中だけで設計したアプリは、現場で使われません。「どんな操作なら、毎日続けられそうですか」と、率直に聞いてみてください。
三つ目は、機密情報の扱いには注意することです。生成AIに業務情報を入力することになるので、お客様の個人情報や社外秘の情報をどう扱うかは、最初にルールを決めておく必要があります。この点は、必要に応じて専門家にご相談ください。
おわりに
これまで、私たちは「正しいアプリ」を探すことに、多くの時間とお金を費やしてきました。比較検討を重ね、評価の高いソフトを選び、それでも現場では使われない――その繰り返しでした。
生成AIの登場は、この長年の悪循環から抜け出すきっかけになります。「正しいアプリ」を探すのをやめて、「あなたが使いやすいアプリ」を作ってしまえばいい。
それは、立派なものでなくて構いません。世間の評価を気にする必要もありません。御社の社員が、毎日気軽に使えるものなら、それで十分なのです。
完璧な一品を、一度に作る必要はありません。「これくらいの機能でいい」「これくらいのシンプルさがいい」――そんな素朴な感覚を、堂々と形にしてみてください。そこに、あなたの会社にとっての、本当のIT化があります。

ミタスサポート事務所代表。富山県で中小企業向けに経営とIT支援を行っています。
中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。
小さな事業者向けに小回りの利くITサービスやサイバーセキュリティ対策に力を注いでいます。

