「もう少し準備してから始めます」 「完璧な状態になったら公開します」 「あと少しだけ整えてから連絡します」
こうした言葉、ご自身でも口にしたことはありませんか。あるいは、頭の中でつぶやいたことがあるかもしれません。
一見すると、これらはとても誠実で前向きな姿勢に見えます。手を抜かず、しっかり仕上げてから世に出したい。お客様に失礼のないようにしたい。そう考えるのは、仕事に対する責任感のあらわれです。
ただ、ここで一つだけ立ち止まっていただきたいことがあります。それは、「完璧を目指して行動すること」と「完璧になるまで行動しないこと」は、まったく別物だということです。
似ているようで、この二つの間には深くて広い谷があります。そして残念ながら、後者の谷にハマってしまうと、なかなか抜け出せません。今回は、この違いについて少し掘り下げてお話ししたいと思います。
そもそも「完璧」とは何でしょうか
まず大前提として、お伝えしておきたいことがあります。
完璧な状態というものは、永遠にやってきません。
これは決して悲観的な話ではなく、わりと身も蓋もない事実です。なぜなら、「完璧」の基準は、自分の成長やお客様の反応、市場の変化によって、常に動き続けるからです。
たとえば、あなたが半年前に「これで完璧だ」と思って作ったサービス案内を、今あらためて読み返してみてください。おそらく「うわっ、ここ直したい」「この表現、今ならこう書くのに」という箇所が、いくつも見つかるはずです。
これはあなたが半年前に手を抜いたわけではありません。ただ、あなた自身がアップデートされたから、過去の自分が物足りなく見えるだけです。むしろ喜ばしいことです。
つまり、完璧は到達点ではなく、追いかければ追いかけるほど遠ざかる地平線のようなものなのです。地平線に向かって歩くこと自体は素晴らしい行為ですが、「地平線に到達したら出発します」と言っている人は、永遠に出発できません。
二つの姿勢の決定的な違い
ここで、冒頭のテーマに戻ります。「完璧を目指して行動する」と「完璧になるまで行動しない」の違いを整理してみましょう。
完璧を目指して行動する人は、まず動きます。70点でも60点でも、とにかく世に出す。そして、お客様の反応を見ながら、少しずつ磨き上げていきます。動きながら完璧に近づこうとする姿勢です。
完璧になるまで行動しない人は、机の前で考え続けます。資料を作り直し、また直し、配色を変え、文言を練り直す。これを「準備」と呼びますが、実際には「行動を始めない理由」を一生懸命つくっている状態に近いことがあります。
この二つは、外から見ると同じ「真面目で慎重な人」に見えるので、本人も気づきにくいのが厄介なところです。「自分はちゃんと準備をしているのだ」と思っているうちに、半年、一年と時間だけが過ぎていく。これは、フリーランスや個人事業主の方にとって、けっこう深刻な落とし穴になります。
具体例:ホームページをつくる二人
少し具体的にお話ししましょう。同じ時期に独立した、AさんとBさんがいるとします。二人とも、ホームページを自分でつくることにしました。
Aさんは、二週間後に「とりあえず最低限のページ」を公開しました。デザインは正直、洗練されているとは言えません。プロフィール写真も、自宅で撮影したものです。サービス内容も、ざっくりとしか書かれていません。Aさん自身、「うーん、まだまだだな」と思っています。
しかし、公開してから問い合わせが少しずつ入るようになりました。実際にお客様と話す中で、「こういう情報が知りたかった」「ここがわかりにくい」という声が集まります。Aさんはその声をもとに、ホームページを少しずつ書き換えていきました。三か月後には、それなりに読みやすい構成のホームページに育っています。
Bさんは、「中途半端なものは出したくない」と考え、じっくり構想を練りました。デザインの本を買い、写真撮影の予約をし、キャッチコピーを練り直し、競合のホームページを研究しました。
そして三か月後。Bさんのホームページは、まだ公開されていません。なぜなら、勉強すればするほど「もっと良くできるはずだ」と思えてしまい、なかなか終わりが見えないからです。Bさん本人は、心から真面目に取り組んでいます。むしろAさんよりも、はるかに多くの知識を蓄えています。
ただ、この三か月間、Bさんに問い合わせをしてきたお客様の数は、ゼロでした。
どちらが優れているという話ではありません。ただ、お客様と出会う機会の数で言えば、明確に差がついてしまったということです。
なぜ私たちは「動かない」を選んでしまうのか
ここで少し、なぜこんなことが起きるのかを考えてみます。
完璧になるまで動かない、という選択は、実はとても安全な選択です。なぜなら、世に出していなければ、誰にも批判されないからです。失敗もしないし、恥もかかない。「まだ準備中なんで」と言っている限り、評価のまな板に載らずに済みます。
これは人間として、ごく自然な反応です。私自身も、原稿を書いていて「もうちょっと推敲してから出そう」と思って、結果的にお蔵入りにした文章が、パソコンの中にひっそりと眠っています。たぶん、もう日の目を見ません。供養が必要かもしれません。
ただ、フリーランスや個人事業主として活動していくうえで、この「安全地帯」に長くとどまることには、見えにくいコストがかかります。時間が過ぎ、機会が失われ、何より「動き出せない自分」に対して、少しずつ自信が削られていく。これがいちばん怖いところです。
では、どうすればよいのでしょうか
完璧主義そのものは、決して悪いものではありません。むしろ、品質の高い仕事を生み出す原動力です。問題なのは、それが「動かない言い訳」に変わってしまったときです。
おすすめしたいのは、次のような考え方です。
まず、「とりあえずの完成」を、本当の完成より先に置くということ。最初から100点を目指さず、「いったん人に見せられる状態」をゴールにする。それを世に出してから、改善のサイクルを回していく。これが、完璧を目指して行動するということの、実際の姿です。
次に、期限を自分で決めてしまうこと。「いつまでに公開する」と先に宣言してしまえば、そこに合わせて自然と仕上げる動きが生まれます。期限がないと、人はいくらでも準備に時間を使えてしまう生き物だからです。
そして、お客様の声こそが最高の改善材料だと知っておくこと。机の前で一人で考えた改善案より、実際のお客様から寄せられた一言のほうが、はるかに的確で、はるかに役に立ちます。動かなければ、その一言は永遠に手に入りません。
おわりに
完璧を目指す姿勢は、誇るべきものです。中途半端な仕事をしないという矜持は、長く活動を続けていくうえで、必ず武器になります。
ただ、その姿勢を「動かないための盾」にしてしまうと、本来手にできたはずの機会を、自分で遠ざけることになります。
完璧は永遠にありえません。だからこそ、完璧を追いかける旅は、出発した瞬間から始まります。机の前で完璧な地図ができあがるのを待っていると、出発の日は永遠にやってきません。
少し荷物が足りなくても、地図が手書きでも、まずは一歩を踏み出してみる。そのほうが、結果的に良い場所にたどり着けることのほうが、ずっと多いように思います。
もし今、あなたが「完璧になったら始めよう」と思っているものがあるとしたら、それを少しだけ前に進めてみてはいかがでしょうか。
完璧でなくて大丈夫です。動いている人だけが、本当の意味で完璧に近づいていけるのですから。

ミタスサポート事務所代表。富山県で中小企業向けに経営とIT支援を行っています。
中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。
小さな事業者向けに小回りの利くITサービスやサイバーセキュリティ対策に力を注いでいます。
