組織図には載らない「部活」が、会社を強くする ── 非公式コミュニティのすすめ

「うちの社員、昼休みに集まってカレーの話ばっかりしてるんだよね」

もし社長であるあなたがそう感じているなら、それはとても良い兆候かもしれません。なぜなら、社員同士が自然と集まって何かを共有している状態は、組織にとって非常に価値のあることだからです。

会社の中には、組織図に描かれた「公式」の部署やチームとは別に、社員が自発的に集まる「非公式なコミュニティ」が存在します。たとえば、フットサル部、ランニング仲間、釣り好きの集まり、ボードゲーム同好会、あるいは「ラーメン二郎についてだけは誰にも負けない」という謎の情熱を共有するグループまで、さまざまです。

今回は、こうした非公式コミュニティが会社にもたらす効果と、経営者としてどう向き合うべきかについてお話しします。

第1章 なぜ「非公式」が大事なのか

公式の場では出てこない本音がある

会議室で「何か意見はありますか?」と聞いても、シーンとなる。これは多くの会社で見られる光景です。しかし、同じメンバーが昼休みや飲み会の場では驚くほど饒舌になることがあります。

非公式なコミュニティには、「役職」や「部署」という肩書きのフィルターが外れた状態で人が集まります。部長も新入社員も、フットサルのコートに立てばただのチームメイトです。この「肩書きが外れる」という状態が、組織の中に風通しの良さを生み出します。

部門の壁を自然に超えてくれる

中小企業であっても、部署間の壁は意外と厚いものです。営業部と製造部がお互いの事情をよく知らないまま、ちょっとした不満を抱えている――そんなことは珍しくありません。

ところが、たとえば社内の釣り部で営業の山田さんと製造の佐藤さんが一緒に釣り糸を垂れていると、「そういえばこの前の納期の件、ちょっと聞きたかったんだけど」という会話が自然に生まれます。わざわざ会議を設定しなくても、部門間のコミュニケーションが勝手に発生するのです。

これは経営者が仕組みとして「部門横断プロジェクト」をつくるよりも、はるかに自然で、しかもコストがかかりません。釣り竿代くらいのものです。

第2章 非公式コミュニティがもたらす3つの効果

効果①:離職率の低下につながる

社員が会社を辞める理由は、給与や待遇だけではありません。「この会社に居場所がない」と感じることが、退職の大きなきっかけになります。

非公式なコミュニティは、業務上の関係とは異なる「もうひとつの居場所」を社員に提供します。仕事で少しつまずいたとき、同じ部署の人には言いにくいことも、バスケ部の先輩になら相談できる。そんな関係性が、社員の「ここにいたい」という気持ちを支えてくれます。

「あの会社、仕事は大変だけど、フットサル部が楽しいから辞められない」。こんな理由で社員が残ってくれるなら、経営者としてはありがたい限りです。もちろん、仕事そのものの魅力も大切ですが、人が組織に留まる理由は意外と多面的なものです。

効果②:新しいアイデアが生まれやすくなる

イノベーションや改善のアイデアは、同じメンバーで同じ会議を繰り返していても、なかなか出てきません。異なる視点を持つ人同士が気軽に話せる環境が、新しい発想の種になります。

非公式コミュニティは、まさにその「異なる視点の交差点」です。経理の人が持っている数字の感覚と、現場の人が持っている肌感覚が、趣味の集まりという気楽な場で交わることで、「それ、うちの業務にも使えるんじゃない?」というひらめきが生まれることがあります。

効果③:組織の「信頼の土台」が厚くなる

ビジネスの現場では、信頼関係がすべての土台です。取引先との信頼はもちろんですが、社内の信頼関係も同じくらい重要です。

公式の場で築かれる信頼は、「仕事ができるかどうか」という評価軸に基づいています。一方で、非公式なコミュニティで築かれる信頼は、「この人はどんな人なのか」という人間性への理解に基づいています。両方の信頼が重なることで、組織としての結束力は格段に高まります。

第3章 具体例 ── ある製造業の会社で起きたこと

ここで、ひとつの例をご紹介します。

ある従業員30名ほどの製造業の会社で、若手社員数名が「写真部」を立ち上げました。といっても大げさなものではなく、週末にスマートフォンで撮った写真を社内のチャットで共有する程度のゆるい集まりです。

最初は若手だけの活動でしたが、そのうちベテランの職人さんが「俺も昔カメラやってたんだ」と参加するようになりました。普段は寡黙で、若手から「ちょっと話しかけづらい」と思われていたその職人さんが、写真の話になると目を輝かせて語り始めたのです。

この写真部をきっかけに、世代間のコミュニケーションが明らかに変わりました。若手がベテランに技術的な質問をしやすくなり、ベテランも若手の新しい発想に耳を傾けるようになった。結果として、現場での連携がスムーズになり、ちょっとしたミスの報告も早くなったといいます。

社長はこの変化を見て、写真部の活動費として月に数千円の補助を出すことにしました。「たった数千円で、こんなに職場の雰囲気が変わるなら安いものだ」とおっしゃっていたそうです。

投資対効果としては、おそらく社内研修よりもコストパフォーマンスが良かったのではないでしょうか。

第4章 経営者として、どう関わるべきか

非公式コミュニティに対する経営者の関わり方には、ちょっとした「さじ加減」が必要です。

やるべきこと:そっと応援する

非公式コミュニティが自然発生したら、それを邪魔しないことがまず第一です。そのうえで、可能であれば小さな支援をしてみてください。

たとえば、会議室を活動場所として使ってもいいと許可を出す、備品の購入を少し補助する、社内報やチャットで活動を紹介する場をつくる、といった程度のことで十分です。大事なのは「会社として認めているよ」というメッセージを、さりげなく伝えることです。

やってはいけないこと:管理しようとする

ここが最も重要なポイントです。非公式コミュニティの良さは、「非公式」であることそのものにあります。

活動報告書を提出させる、KPIを設定する、参加を義務化する――こうしたことをした瞬間に、それは「非公式」ではなくなります。社員にとっては「また仕事が増えた」としか感じられません。

ある社長が、社内のランニングクラブの成果を数値化しようとして「月間走行距離の目標を設定しよう」と提案したところ、翌月からメンバーが半分に減ったという話を聞いたことがあります。趣味に目標管理を持ち込まれたら、そりゃ逃げますよね。

ちょうどいい距離感とは

イメージとしては、「遠くから温かく見守っている親戚のおじさん」くらいの距離感がベストです。普段は口を出さないけれど、たまに差し入れを持ってきてくれる。そんな存在です。

もし社長自身も参加したいなら、それも良いことです。ただし、社長として参加するのではなく、あくまで「ひとりのメンバー」として参加することが大切です。フットサルの試合中に「来期の売上目標だけどさ」と話し始めたら、全員がドリブルで逃げていくことでしょう。

第5章 「うちにはそんなものないよ」という社長へ

「うちの会社は小さいから、部活なんて大げさなものはないよ」という声もあるかもしれません。

しかし、非公式コミュニティは5人でも3人でも成立します。むしろ、少人数の会社だからこそ、ひとつのコミュニティが組織全体に与える影響は大きくなります。

きっかけは些細なことで構いません。「お昼に一緒にカレーを食べに行く会」でもいいのです。重要なのは、業務以外の文脈で社員同士がつながる場があるかどうかです。

もし今、社内にそうした動きがまったくないのであれば、少しだけ環境を整えてみてはいかがでしょうか。休憩スペースにコーヒーメーカーを置く、社内チャットに雑談用のチャンネルをつくる、「趣味や好きなことを共有する掲示板」を設けてみる。こうした小さな仕掛けが、非公式コミュニティの芽を育てることがあります。

おわりに ── 組織図の「余白」にこそ価値がある

経営者であれば、組織図を眺める機会は多いと思います。しかし、組織の本当の力は、組織図に描かれた線の上だけにあるわけではありません。

線と線の間、つまり「余白」の部分で社員同士がどうつながっているか。そこに、組織の柔軟性や粘り強さの源泉があります。

非公式コミュニティは、その余白を豊かにしてくれる存在です。直接的に売上を生むものではないかもしれません。しかし、社員が「この会社で働くのが楽しい」と感じる理由のひとつになり、それが結果として組織の力を底上げしてくれます。

組織図に載らないつながりを、どうか大切にしてください。もしかすると、来月の業績を変えるアイデアは、今日のフットサルの試合後の雑談から生まれるかもしれません。

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