ミスは人のせいではなく、仕組みのせい 〜「気をつけます」で終わらせない職場のつくり方〜

職場でミスが起きたとき、つい口から出てしまう言葉があります。

「なんでこんなことになったの?」 「ちゃんと確認した?」 「気をつけてって言ったよね?」

そして最終的に、こうなります。

「次から気をつけます。すみませんでした」

…はい、おなじみの光景です。私もこの会話を、人生で何百回見てきたかわかりません。たぶん、明日もどこかの会議室で繰り広げられているはずです。

ただ、ここで一度立ち止まってみていただきたいのです。「気をつけます」で本当にミスは減ったでしょうか。減っていれば、同じ話を何度もしていないはずなのです。

実は、繰り返されるミスのほとんどは「人」ではなく「仕組み」に原因があります。今回は、その理由と、具体的にどう変えていけばいいのかについてお話ししていきます。

第1章:なぜ「人のせい」にしたくなるのか

ミスが起きたときに、人を責めたくなる気持ちは、とてもよくわかります。原因がはっきりしているように見えますし、その人さえ気をつければ解決しそうに思えるからです。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

人間は、どれだけ真面目で優秀な方であっても、必ずミスをします。疲れていれば見落としますし、急いでいれば手順を飛ばしますし、似た書類が並んでいれば取り違えます。これは性格の問題ではなく、人間という生き物の仕様です。

つまり、「人が気をつければミスはなくなる」という前提自体が、そもそも無理な話なのです。

たとえるなら、「重力があるから物が落ちる」という現象に対して、「物に気をつけてもらおう」と言っているようなものです。物には気をつけようがありません。落ちないように棚を作るしかないのです。

第2章:仕組みを変えるとどうなるか 〜お弁当屋さんの例〜

少し具体的な例でお話しします。

あるお弁当屋さんで、注文と違うお弁当を渡してしまうミスが頻発していたとします。原因を調べると、ピーク時間帯にスタッフが慌てて商品を袋に入れ、ラベルの確認を飛ばしていることがわかりました。

ここで「もっと注意して確認してください」と朝礼で伝えても、おそらくミスは減りません。ピーク時の忙しさは変わらないからです。

では、どう仕組みを変えるか。たとえば次のような方法が考えられます。

ひとつは、お弁当の種類ごとに容器やフタの色・形を変えることです。「のり弁は黒いフタ、唐揚げ弁当は赤いフタ」と決めておけば、忙しくて頭が回らないときでも、目に入った瞬間に違いがわかります。

もうひとつは、注文を受けた時点で、レジから商品名のラベルが自動で印字され、それをそのまま袋に貼る流れにすることです。スタッフが頭の中で「えーと、唐揚げ弁当が2つと…」と記憶を頼りにすることがなくなります。

ポイントは、「人ががんばって思い出す」「人ががんばって確認する」という工程を、できるだけ減らすことです。人間の記憶力と注意力は、思っているよりずっとあてになりません(自分のことを棚に上げて言っているわけではなく、私自身も冷蔵庫を開けた瞬間に何を取りに来たか忘れる側の人間です)。

第3章:いちばん効くのは「人にチェックさせない」こと

さて、仕組みづくりの話をすると、よく出てくるのが「ダブルチェックを徹底しよう」という案です。一見、安心感があります。一人より二人で見たほうが、ミスは減りそうです。

ところが、現場ではこれがあまり機能しないことが多いのです。

理由は単純で、チェックする側の人間も、間違える生き物だからです。しかも、「もう一人が見てくれるから大丈夫だろう」という安心感が、かえって両者の集中力を下げてしまうことすらあります。「あなたが見てくれていると思ってました」「いや、私はあなたが見ていると思ってました」という会話、聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ですので、本当に効く仕組みは、「人がチェックしなくても成立する仕組み」です。

たとえば、製造業の現場では、部品が正しい向きでないとそもそも次の工程に進めない治具(じぐ)が使われます。検品担当者が目を皿にして向きを確認するのではなく、間違った向きでは物理的にハマらない、という設計です。

事務作業でも同じ発想が使えます。たとえば、入力フォームで「数字しか入らない欄」と「日付しか入らない欄」を分けておけば、文字種の間違いはそもそも起こりません。請求書の金額計算を手作業ではなくシステムで自動計算にすれば、電卓の打ち間違いは消えます。

「人ががんばらなくてもうまくいく」状態をつくる。これが、仕組みづくりの最高到達点です。チェックは、それでも漏れたものを拾うための最後の安全網であって、最初の防衛線にすべきではないのです。

第4章:仕組みを考えるときの3つの視点

では、実際に仕組みを見直すとき、どこから手をつければよいのでしょうか。私は次の3つの視点で考えるようにおすすめしています。

ひとつ目は、「そもそもミスが起こりようがない形にできないか」という視点です。先ほどの治具やフォームのように、間違った操作が物理的・システム的にできないようにします。これがいちばん強力です。

ふたつ目は、「人の判断や記憶に頼らない流れにできないか」という視点です。色分け、自動印字、自動計算など、機械や道具に任せられるところは任せてしまいます。人の脳のメモリは、もっと大事なことに使ったほうが経済的です。

みっつ目は、「万が一すり抜けたとき、早く気づける仕組みになっているか」という視点です。レジの金額が想定より大きくずれたらアラートが出る、といった仕組みです。これは最後の保険ですので、ここに頼りすぎないことが大切です。

すべてを一度に整える必要はありません。最も困っているところ、最も影響が大きいところから、ひとつずつ手をつけていけば十分です。

第5章:仕組みづくりがもたらす、もうひとつの効果

仕組みでミスを防ぐことには、ミスが減る以外の大きな効果があります。

それは、職場の空気が変わることです。

「人のせい」にする職場では、ミスを隠したくなります。報告すれば叱られるとわかっているので、できれば気づかれないうちに処理したい、と考えるのが自然です。その結果、小さなミスが見えないところで積み重なり、ある日大きな問題として表に出てくることになります。

一方、「仕組みのせい」と考える職場では、ミスは「仕組みを改善するためのヒント」になります。報告すればむしろ感謝される、というわけです。すると情報が集まり、改善が進み、結果としてミスがどんどん減っていきます。

働く方々にとっても、毎日「気をつけなければ」と気を張り続けるのは、想像以上に消耗するものです。仕組みが守ってくれるとわかっていれば、安心して仕事に集中できます。

おわりに:怒る前に、図を描いてみる

最後に、ひとつだけ提案させてください。

次にミスが起きたとき、誰かを呼びつけて話をする前に、紙とペンを用意して、業務の流れを図に描いてみてください。「どこで」「なぜ」ミスが起きやすいのかが、きっと見えてくるはずです。

そして、その図を見ながら、「ここは人がチェックしなくてもいい形にできないか」「ここは道具や仕組みに任せられないか」と考える時間を持っていただきたいのです。叱るより、ずっと建設的で、ずっと効果が長続きします。

ミスは、責めるべき相手ではなく、改善すべき仕組みからのお便りです。お便りはありがたく受け取って、次に活かしていきましょう。

そのほうが、職場の皆さんも、そして何より、ご自身の血圧のためにも、きっと良い結果につながるはずです。

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