仕事に役立つ知識を手に入れたいとき、本を読む、ネットで調べる、誰かに聞く……いろいろな方法がありますが、その中でも根強い人気があるのが「外部セミナー」です。
会場に足を運ぶものから、オンラインで気軽に参加できるものまで、テーマも料金もさまざま。「ちょっと興味があるな」と思って、社員の誰かを参加させた経験は、多くの会社にあるのではないでしょうか。
ところが、このセミナー。実は「一人が参加しただけ」で終わってしまうケースが、驚くほど多いのです。せっかく時間とお金をかけたのに、その学びが本人の頭の中だけにとどまり、数週間後には誰の記憶からも消えている。これはとてももったいないことです。
この記事では、外部セミナーを「個人が受けて終わるもの」から「組織の力に変わっていく仕組み」にするための使い方を、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。経営者の方はもちろん、チームで学びを活かしたいと考えるすべての方に読んでいただける内容です。
第1章:よくある「セミナーあるある」
まずは、ちょっと耳の痛い話から始めさせてください。
会社の誰かがセミナーに参加した後、こんな光景はありませんか。
参加した本人が、会場でもらった分厚い資料を、机にそっと立てかける。「あとでみんなに共有しよう」と思いながら、その資料が日の目を見ることは二度とない。気づけば、もらってきた名刺の束も、輪ゴムでまとめられたまま引き出しの奥で静かに眠っている――。
セミナー好きの方の机のまわりには、こうして「共有するつもりだった資料」と「連絡するつもりだった名刺」が、まるで地層のように積み重なっていきます。本人だけは「自分はよく勉強している」と満足しているのですが、組織として何かが変わったかというと、なかなかそうはいかないものです。
これは決して珍しいことではありません。むしろ、ほとんどの会社が通る道です。なぜこうなってしまうのか。それは、セミナーを「一人が受けるもの」「参加すればゴール」だと思ってしまっているからです。
ここから先は、この「もったいない」を防ぐための、ちょっとした仕組みの話です。
第2章:まずは「2人以上」で参加させる
最初のポイントは、とてもシンプルです。セミナーには、できるだけ「2人以上」で参加させてみてください。
一人で参加すると、学びはその人の頭の中だけにとどまります。しかも、人の記憶は驚くほど頼りないので、「あんなに感動したのに、一週間後には思い出せない」ということが平気で起こります。一人だと、その記憶違いを正してくれる人もいません。
ところが2人で参加すると、状況が変わります。帰り道に「さっきの話、こういうことだよね」「いや、自分はこう受け取ったよ」と話すだけで、その場で復習が始まります。一人が聞き逃したところを、もう一人が補ってくれる。同じ話を聞いても受け取り方は人それぞれですから、2人分の視点が合わさることで、学びはぐっと立体的になります。
「一人分の参加費しか出せない」という場合もあるかもしれません。それでも、可能な範囲で複数人での参加を検討する価値は十分にあります。費用は2倍でも、組織に残る学びは2倍どころではないからです。
第3章:帰ったら「みんなに説明する場」を作る
複数人で参加したら、次が肝心です。会社に戻ったあと、短時間でかまいませんので、参加していないメンバーに「内容を説明する場」を必ず設けてください。15分でも20分でも構いません。
この「人に説明する」という作業には、想像以上の力があります。
人は、自分が説明できないことは、本当には理解できていないものです。聞いているだけのときは「わかったつもり」でも、いざ人前で話そうとすると、「あれ、ここはどういう意味だったかな」と詰まる。その詰まった部分こそが、本人がまだ消化できていない部分です。つまり、説明の準備をする過程で、参加者は自分の理解の穴に自分で気づくことができるのです。
しかも、説明を聞いた他のメンバーにも学びが伝わります。一人の参加費で、参加していない人まで知識を受け取れる。これほど効率のよい話はありません。
そして地味に効いてくるのが、健全な「緊張感」です。「人に説明しなければならない」とわかっていると、セミナー当日の聞き方が変わります。なんとなく聞き流すのではなく、「これをどう伝えようか」と考えながら聞くようになる。聞く姿勢そのものが、説明会の予定があるだけで真剣になるのです。
第4章:単年で終わらせず「毎年・隔年」でまわす
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい仕組みの話です。
セミナー参加を「今年だけ」のイベントにしてしまうと、その効果は一回きりで消えてしまいます。そうではなく、「毎年、あるいは隔年で、誰かを順番に参加させていく」という仕組みにしてみてください。今年はAさんとBさん、再来年はCさんとDさん、というように、少しずつ参加者を入れ替えながら続けていくのです。
これを毎年まわしていくと、組織の中に面白い循環が生まれます。
まず、先に参加した先輩が、後輩の説明会に同席することになります。後輩が説明する場に、同じ内容をすでに学んだ先輩が座っている。これは後輩にとっては、よい意味でのプレッシャーです。「いいかげんな説明をしたら先輩にすぐ見抜かれてしまう」とわかっているので、自然と準備に力が入ります。前日にこっそり資料を読み込み直す後輩の姿は、少しほほえましくもあります。
一方、その様子を見ている先輩のほうも、ただ腕を組んで座っているわけにはいきません。後輩の説明を聞きながら、「そういえば、こういう話だったな」と自分の学びを思い出す。つまり、先輩にとっては絶好の「復習の機会」になるのです。一度学んだことは、こうして人の説明を聞き直すことで、より深く定着していきます。
説明する後輩には「変なことは言えない」という緊張感が生まれ、聞いている先輩には「復習」という効果が生まれる。この二つが毎年かみ合っていくことで、セミナーは一回きりのイベントではなく、組織を育てる仕組みへと変わっていくのです。
第5章:具体例で見てみましょう
では、ここまでの話を、ひとつの例で振り返ってみます。あくまで一般的な例として読んでください。
ある小さな会社が、「社員の知識をもっと組織全体に広げたい」と考えて、毎年テーマを決めて外部セミナーに人を送ることにしたとします。
初年度は、若手のAさんと中堅のBさんの2人で、業務改善のセミナーに参加しました。帰り道で2人は「あの話、こう使えそうだね」と早速おさらい。会社に戻った翌週、他のメンバーを集めて30分の説明会を開きました。説明を任されたAさんは、人前で話すために前日からしっかり資料を読み込み、聞いているだけのときよりもずっと深く内容を理解できました。
翌々年。今度はCさんとDさんが、別のセミナーに参加します。そして説明会には、2年前に参加したAさんとBさんも顔を出しました。Cさんは「先輩たちが聞いているから、ちゃんと説明しないと」と少し緊張しながらも、丁寧に内容を伝えます。一方のAさんとBさんは、後輩の説明を聞きながら「ああ、こういう考え方だったな」と当時の学びを思い出していました。
こうして数年が経つころには、社内に「セミナーで学び、説明し、それを後輩が引き継ぐ」という流れが当たり前のものになっていきました。特別な才能や難しいテクニックを使ったわけではありません。「複数人で参加する」「帰ったら説明する」「毎年まわす」という当たり前のことを、ただ続けただけ。それだけで、一回のセミナーが、会社全体の文化に育っていったのです。
第6章:なぜこのサイクルが組織を強くするのか
同じセミナーに参加しても、その後に大きく差がつくことがあります。その差は、頭の良さでも、参加費の高さでもありません。
差がつくのは、「学びを個人の中で終わらせたか、組織の仕組みに変えたか」だけです。
一人が10個のことを学んで誰にも話さない会社より、2人が学んでみんなに説明し、それを毎年繰り返す会社のほうが、確実に前に進みます。大事なのは学びの量ではなく、その学びが何人に伝わり、どれだけ繰り返されたか、なのです。
そして、このサイクルをまわすために必要なのは、難しい意志の力ではありません。「複数人で参加させる」「短くてもいいから説明会を開く」「毎年か隔年で誰かを送り続ける」という、ちょっとした仕組みです。やる気に頼るのではなく、仕組みでカバーする。これがいちばん長続きするコツです。
まとめ
外部セミナーは、使い方しだいで、組織を育てる心強い場になります。最後に、大切なことをもう一度だけ整理しておきます。
セミナーは「一人が参加して終わるもの」ではなく、「組織にまわっていく仕組み」にしてこそ、本当の力を発揮します。そのために、参加はできるだけ2人以上で。帰ったら短時間でもいいので、みんなに説明する場を設ける。そして、それを単年度で終わらせず、毎年や隔年で誰かを参加するように続けてみてください。
説明する人には「先輩の前で変なことは言えない」という適度な緊張感が生まれ、先に学んだ先輩には「復習」という効果が生まれます。この二つがかみ合って毎年めぐっていくことが、組織にとって、とても良い循環に育っていくのだと思います。
あなたの会社の従業員が参加する次のセミナーが、「いい話だったね」で終わらず、「みんなで前に進めた」と思える一歩になることを願っています。

ミタスサポート事務所代表。富山県で中小企業向けに経営とIT支援を行っています。
中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。
小さな事業者向けに小回りの利くITサービスやサイバーセキュリティ対策に力を注いでいます。

