「短時間になっただけ」で終わらせない――生産性向上の本当の肝

「業務を効率化しましょう」「ムダをなくしましょう」。こうした掛け声は、どの会社でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。会議を減らし、資料を簡素化し、作業手順を見直す。結果として残業が減り、少し早く帰れるようになった。めでたしめでたし。

……本当にめでたいでしょうか?

効率化したはずなのに、売上は変わっていない。利益も横ばい。社員は少し楽になったかもしれないけれど、会社としての成果は特に増えていない。それどころか「最近ちょっと暇なんですけど」という声すら聞こえてくる。これでは「生産性が上がった」とは言えません。

この記事では、生産性向上の取り組みが「ただ楽になっただけ」で終わってしまう原因と、本当に成果につなげるための肝についてお伝えします。

第1章 生産性の正体を分解してみる

生産性とは、ごくシンプルに言えば「投入(INPUT)に対して、どれだけの成果(OUTPUT)を得られたか」の比率です。

たとえば、10時間かけて100万円の売上を生んでいたチームが、同じ10時間で150万円の売上を生むようになれば、生産性は1.5倍になったと言えます。あるいは、同じ100万円の売上を7時間で達成できるようになれば、これも生産性の向上です。

ここまでは多くの方がご存じかもしれません。問題は、この式を見たときに「どちらに注目するか」です。

世の中の生産性向上の議論は、どうしてもINPUT側――つまり「いかに減らすか」「いかに効率よくやるか」に偏りがちです。もちろん、ムダな作業を減らすことは大切です。しかし、INPUTを減らすことは、あくまで「手段」であって「目的」ではありません。

生産性向上の本当の目的は、OUTPUTを増やすことにあります。ここを見失うと、効率化の取り組みは「ただ暇になっただけ」という残念な結末を迎えることになります。

第2章 INPUTを減らしただけでは、なぜダメなのか

「ムダを省いて早く帰れるようになったなら、それでいいじゃないか」と思われるかもしれません。たしかに、残業が減れば残業代は減ります。社員のワークライフバランスも改善されるかもしれません。それ自体は悪いことではありません。

しかし、経営の視点で見ると、話はそう単純ではありません。

INPUTを減らしても、OUTPUTがそのまま変わらなければ、会社の売上も利益も増えません。人件費が少し下がったぶんだけ利益が改善するかもしれませんが、それは「コスト削減」であって「生産性向上」とはちょっと違います。コスト削減だけで会社が成長することは、まずありません。削れるものには限界がありますし、削りすぎれば組織は痩せ細っていくだけです。

もう一つ、現場で実際によく起こる問題があります。効率化して時間が浮いたはずなのに、その時間が「なんとなく」消えていくのです。ぽっかり空いた時間に、新しい仕事が入ってくるわけでもなく、かといって自分から何かを始めるわけでもなく、気づけばネットを眺めていたり、必要以上に丁寧な資料を作ったりして、結局また忙しい状態に戻っている。人間には「空いた時間を何かで埋めたくなる性質」があるようで、放っておくと余力は煙のように消えてしまいます。

これが、INPUTを減らすだけでは生産性向上にならない最大の理由です。

第3章 肝は「余力を新たなOUTPUTに変換する」こと

では、生産性を本当の意味で向上させるにはどうすればよいのか。答えはシンプルです。

INPUTを減らして余力をつくり、その余力を新たなOUTPUTに結びつける。

この二段構えが、生産性向上の肝です。

INPUTの削減は、それ自体がゴールではなく、次のステップに進むための「余白づくり」です。業務を効率化するのは、空いた時間やコストで「もっと価値のあること」に取り組むためです。ここまでセットで考えて初めて、生産性向上と呼べるのだと思います。

たとえるなら、部屋の片づけに似ています。クローゼットの中を整理して、着なくなった服を処分する。それだけでも気分はすっきりしますが、クローゼットがきれいになったこと自体は、生活を豊かにしているわけではありません。空いたスペースに、新しい季節の服を迎え入れたり、仕事道具を整然と並べたりして、日々の暮らしが少し良くなったとき、「片づけてよかった」と本当に実感するのではないでしょうか。

ビジネスでも同じです。効率化で浮いた2時間を、新規顧客への提案に使う。削減できた予算を、新サービスの開発に回す。手が空いたスタッフに、これまで手つかずだった顧客フォローを任せる。こうした「余力の再投資」があって初めて、OUTPUTが増え、生産性が上がったと言えるわけです。

第4章 具体例――ある飲食店の「余力の使い方」

ここで一つ、わかりやすい例で考えてみましょう。こんなケースを想像してみてください。

ある小さな飲食店で、ランチタイムの仕込みに毎朝3時間かかっていたとします。メニューの品数が多く、それぞれに下準備が必要だったためです。スタッフは朝から汗だくで、ランチが終わる頃にはぐったり。ディナーの準備に取りかかる気力がほとんど残っていない状態でした。

そこで、ランチメニューを思い切って絞り込みました。売れ筋を分析して、注文数の少ないメニューをカット。仕込みの工程も見直して、共通の食材でまとめられるものは一括で準備するようにしました。結果、仕込み時間は3時間から1時間半に短縮されました。

ここまでは、よくある「効率化の成功事例」です。しかし、この店が本当に変わったのはここからでした。

浮いた1時間半を、ディナーの新メニュー開発にあてたのです。ランチでは提供しないような、少し手の込んだ料理を試作し、ディナー限定メニューとして打ち出しました。さらに、以前は忙しくて手が回らなかったSNSでの発信も始め、新メニューの写真を定期的にアップするようにしました。

数ヶ月後、ディナーの客数が増え始めます。「ランチで行ったことがあるけど、ディナーもやってたんだ」「SNSで見た料理が気になって」といった来店動機が生まれるかもしれません。ランチの売上はメニューを絞った分やや減ったとしても、ディナーの売上増がそれを上回れば、トータルの売上は以前より伸びることになります。

ポイントは、仕込みを効率化して「楽になった、よかった」で終わらなかったことです。生まれた余力を、新しい売上(OUTPUT)を生む活動に明確に振り向けた。だから成果につながったのです。

もし仕込み時間を短縮しただけで「あとは休憩しよう」で終わっていたら、残業代にあたる部分は多少減ったかもしれませんが、売上は変わらず、下手をすればメニューを減らした分だけランチの売上が下がって、かえってマイナスになっていた可能性すらあります。

第5章 余力を「意図的に」使う仕組みをつくる

第2章で、人間には「空いた時間をなんとなく埋めてしまう性質」があるとお伝えしました。だからこそ、効率化で生まれた余力は、放置してはいけません。意図的に、具体的に、「何に使うか」を決めておく必要があります。

これは個人レベルでも組織レベルでも同じです。

たとえば、ある業務を効率化して週に5時間の余力が生まれたとします。このとき、「5時間空いたね」で終わらせず、「この5時間で○○に取り組む」と具体的に決めてしまうのです。新規顧客へのアプローチに使う、商品の改善案を考える、スタッフの教育にあてる。何でもかまいませんが、「新たなOUTPUTにつながる活動」であることが重要です。

ここでよくある落とし穴は、せっかく余力をつくったのに、それを別の「効率化」に使ってしまうことです。「もっと改善できるところはないか」「あの作業もまだ無駄があるんじゃないか」と、延々とINPUTの削減だけを繰り返す。片づけで言えば、ずっとクローゼットの中を整理し続けて、新しい服を一向に買いに行かないようなものです。片づけ自体が趣味になってしまっている状態です。効率化マニアの方に怒られそうですが、手段が目的化しているケースは意外と多いのです。

余力をつくるフェーズと、余力を活かすフェーズ。この二つを意識的に分けて、両方にきちんと取り組むことが大切です。

第6章 小さく始めて、OUTPUTの芽を育てる

「余力を新しいOUTPUTに変換するといっても、具体的に何をすればいいかわからない」という方もいらっしゃるかもしれません。

大丈夫です。いきなり新規事業を立ち上げる必要はありません。

まずは、今の延長線上で「もう少しできること」を探してみてください。既存のお客様へのフォローの電話を1本増やす。商品の見せ方を少し工夫してみる。これまで断っていた問い合わせに対応してみる。小さなことで構いません。

大切なのは、効率化で浮いた時間を「成果につながりうる活動」に意識して振り向けることです。すべてがうまくいくわけではありませんが、10個試して1個でも当たれば、それは立派なOUTPUTの増加です。

効率化という「引き算」は、新しいOUTPUTという「足し算」のためにある。そう考えると、面倒に感じていた業務改善にも、少し前向きな気持ちで取り組めるのではないでしょうか。

おわりに 引き算の先に、足し算がある

生産性向上の肝をまとめます。

INPUTを減らすことは大切です。しかし、それだけでは「暇になった」で終わってしまいます。減らしたINPUTで生まれた余力を、新たなOUTPUTに結びつけること。この「引き算→余力→足し算」のサイクルを回すことが、生産性向上の本質です。

効率化は目的ではなく、手段です。その先にある「何を生み出すか」まで見据えてこそ、取り組みに意味が生まれます。

とはいえ、最初から壮大な計画は必要ありません。まずは日々の業務の中から一つ、「これ、やめても困らないかも」というものを見つけて、浮いた30分で「これ、やったら面白いかも」ということに手をつけてみる。そのくらいの軽い気持ちで十分です。

冷蔵庫の中身を整理したら、空いたスペースに何を入れましょうか。賞味期限切れの調味料を捨てて、そこに新しい食材を迎え入れたとき、今夜の食卓はちょっとだけ豊かになるはずです。……新しい食材を買ってこずにスペースを眺めて満足するだけでは、お腹は膨れませんので、そこだけはご注意ください。

生産性向上は、引き算で終わらせない。その先の足し算まで、セットで考える。ぜひ、今日から意識してみてください。

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