SNSを眺めていると、こんな投稿をよく見かけます。
「これからの時代は”何を買うか”ではなく”誰から買うか”が重要だ」
「商品が生まれるまでのストーリーを語れ。そうすれば選ばれる」
なるほど、たしかに素敵な考え方です。共感できる部分もあります。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
先週、あなたが最後にネットで買い物をしたとき、「この出品者のストーリーに共感したから」という理由で購入ボタンを押しましたか?
……おそらく、多くの方が「いや、一番安かったから」「レビューが良かったから」「翌日届くから」と答えるのではないでしょうか。
今回は、この「誰から買うか」論に少しだけ疑問を投げかけつつ、小さなビジネスが本当に大切にすべきことについて考えてみたいと思います。
第1章:EC市場の現実 ── 同じ商品なら安い方が勝つ
経済産業省の調査によると、日本のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)の市場規模は年々拡大を続けています。Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングなどの大手ECモールは、私たちの買い物のあり方を根本から変えました。
この変化が意味するのは、とてもシンプルなことです。
同じ商品であれば、消費者はより安く、より便利に買えるところを選ぶ。
考えてみれば当然の話です。まったく同じ洗剤を買うのに、「この店主の人柄が好きだから」という理由で500円高いお店を選ぶ人は、残念ながら少数派でしょう。しかも、ECサイトでの買い物には「店員さんと会話しなくていい」という、人見知りの方々にとってはたまらないメリットもあります。
つまり、誰でも仕入れられる商品、どこでも買える商品を扱っている限り、「誰から買うか」で差別化するのはかなり難しいのが現実です。価格.comでワンクリック比較される世界で、ストーリーだけで戦い続けるのは、なかなかハードモードと言わざるを得ません。
第2章:じゃあ何が強いのか ── 「ここでしか買えない」の力
では、価格競争に巻き込まれずに選ばれ続けるには、どうすればいいのでしょうか。
答えはシンプルです。
「ここでしか買えない」商品を持つこと。
つまり、ニーズのあるオリジナル商品や限定商品です。
「ニーズのある」という部分がとても重要です。世の中にないものを作れば何でも売れるわけではありません。誰も欲しがらないオリジナル商品は、ただの在庫です。お客様が「これ、欲しかったんです!」と思える商品であること。その上で、他では手に入らないこと。この2つが揃ったとき、その商品はとても強い武器になります。
なぜ強いのか。理由は明快です。
比較されないからです。
Amazonで「類似商品」が表示されない。価格.comで他店の値段と並べられない。「もうちょっと安いところないかな」と検索されても、出てこない。その商品が欲しければ、あなたから買うしかない。これは、ビジネスにおいて非常に大きなアドバンテージです。
第3章:具体例で考える ── 地方の小さなパン屋さんの話
わかりやすい例を一つ挙げます。
地方のある小さなパン屋さんが、地元産の素材を使った独自のパンを開発したとします。たとえば、その地域でしか採れない柑橘を練り込んだ食パンです。
普通の食パンであれば、スーパーで100円台から買えます。大手メーカーの商品と比べられたら、小さなパン屋さんに勝ち目はほとんどありません。
ところが、「〇〇町産の△△みかんを使った食パン」となると、話がまったく変わります。
まず、その素材を使っているのはそのお店だけ。Amazonで検索しても出てきません。さらに、地元の柑橘を使っているという点で、地域の方には「応援したい」という気持ちも生まれますし、観光客には「ここでしか買えないお土産」としての価値が加わります。
そしてここがポイントなのですが、この商品が選ばれている最大の理由は「美味しくて、ここでしか買えないから」です。「パン屋さんの人柄が素敵だから」ではありません(もちろん人柄が良いに越したことはありませんが)。
商品そのものに「買う理由」が内蔵されている。これが、オリジナル商品・限定商品の最大の強みです。
第4章:ストーリーは「土台」ではなく「追い風」
ここで、冒頭の「誰から買うか」「ストーリーが大事」という話に戻ります。
私はストーリーを否定したいわけではありません。むしろ、ストーリーは強力な武器になり得ます。ただし、順番が大事だと考えています。
まず最初にあるべきは、その商品自体の価値です。
「この商品にしかない機能がある」「この商品でしか味わえない体験がある」「ここでしか手に入らない」。こうした商品力がしっかりあった上で、「実はこの商品、こういう想いで作ったんです」というストーリーが加わると、お客様の満足度はさらに高まります。
逆に言えば、商品自体に際立った特徴がないのに、ストーリーだけで売ろうとするのは、かなり厳しい戦い方です。
たとえるなら、ストーリーは料理の「盛り付け」のようなものです。美味しい料理を美しく盛り付ければ、感動は倍増します。でも、まずい料理をどれだけ美しく盛り付けても、二度目の注文はありません。「映えるけど味は普通」のお店が長続きしにくいのと同じことです。
商品力という土台があって、初めてストーリーという追い風が効いてくる。この順番を間違えると、どれだけSNSで発信しても、なかなか成果につながりません。
第5章:「誰から買うか」が効く場面もある
一方で、フォローしておきたいことがあります。
「誰から買うか」が本当に重要になる場面も、たしかに存在します。
たとえば、コンサルティングや士業のようなサービス業。形のない商品を扱う場合、「この人なら信頼できる」という判断基準は非常に大きなウエイトを占めます。また、同じような品質のオリジナル商品が複数ある場合に、最後の決め手として「あの人から買いたい」という気持ちが働くこともあるでしょう。
つまり、「誰から買うか」は万能ではないけれど、無意味でもない。大切なのは、それを唯一の武器にしないということです。
「誰から買うか」だけに頼る戦略は、言ってみれば、素手で格闘技の試合に出るようなものです。人間力だけで勝てる人もいるかもしれませんが、できれば武器(=商品力)は持っておきたいところです。
まとめ:まず「何を売るか」、そのあとに「誰が売るか」
ここまでの話を整理します。
1. 同じ商品なら、安い方・便利な方が選ばれる。これはECの時代において動かしがたい現実です。
2. 価格競争から抜け出すには、「ここでしか買えない」オリジナル商品・限定商品を持つことが有効です。ただし、ニーズがあることが大前提です。
3. ストーリーや「誰から買うか」は、商品力があった上での追加の武器です。土台ではなく、追い風として位置づけましょう。
SNSでは「ストーリーを語ろう」「ファンを作ろう」という発信が目立ちます。もちろんそれも大切なことです。ですが、まずは「お客様が”これ、欲しい!”と思える商品を作ること」「それが他では手に入らないものであること」。ここに一番のエネルギーを注ぐべきではないでしょうか。
良い商品は、それ自体が最高のストーリーを語ってくれます。
お客様に「この商品が好きだから買っている。……あ、そういえばこのお店の人もいい人だよね」と言ってもらえたら、それがきっと一番幸せなビジネスのかたちです。

ミタスサポート事務所代表。富山県で中小企業向けに経営とIT支援を行っています。
中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。
小さな事業者向けに小回りの利くITサービスやサイバーセキュリティ対策に力を注いでいます。

