社長がエースで4番を脱却するために行うこと

社長が優秀な会社ほど、ある落とし穴にハマります。

それは、「社長が決めて、社員はその通りに動く」会社になってしまうことです。

「え、それの何がダメなの?」と思った方、少し注意が必要かもしれません。一見、ムダがなく効率的な組織に見えますが、実はこの形、あるところで成長がぴたりと止まります。

今回は、なぜ「決めて動かす会社」が伸び悩むのか、そして、どうすれば社員が自分で動ける会社になるのか、を一緒に考えていきましょう。

「決めて動かす」が最強に見える時期

会社が小さいうちは、「社長が決めて、社員が動く」は最強の形です。判断は速く、ブレがなく、社員も迷わない。社長は経験も知識も豊富ですから、決めるのも当然うまい。これで結果も出るので、社長は「自分が決めるのが、結局は一番早い」と確信を深めていきます。

ところが、ここに最初の罠があります。

うまくいっている方法ほど、なかなか変えられません。「決めて動かす」が会社を伸ばしてくれた成功体験が、社長の中で正解として固まっていく。そして、会社の規模が大きくなっても、お客様が増えても、同じやり方を続けてしまうのです。

「社長が決め、社員がすぐ動く。これこそ会社を伸ばす最短ルートだ」――こう信じて経営を続けた末に、ある段階でぱたっと成長が止まる。そんな会社は、決して珍しくありません。

静かに進行する「考えない組織」化

「社長が決めて、社員が動く」体制には、見えにくい副作用があります。

説明するより、自分で直した方が早い。 考えさせるより、答えを出した方が正確。

そうしているうちに、お客様対応の判断も、価格の判断も、商品の判断も、すべて社長のもとに集まってきます。社員からすれば、「社長に聞けば答えが返ってくる」のですから、自分で考える理由がない。むしろ、勝手に判断するとあとで怒られる――そんな空気さえ漂い始めます。

社長が良かれと思って先回りすればするほど、社員が自分で考える機会は、少しずつ、確実に減っていきます。気がついたときには、「うちの社員、ぜんぜん考えてくれないんだよね」と社長がぼやく会社のできあがりです。社員からすれば、考えなくていいように育てられただけ、なのですが。

そして、ここに本当の落とし穴があります。

「決めて動かす」モデルは、社長の頭脳が会社の天井になります。社長の判断力以上には、会社は大きくなれない。社長の時間が足りなくなった瞬間、決裁が滞る。社長が体調を崩した瞬間、現場が止まる。会社の成長スピードは、社長一人の処理能力にぴたりと縛られてしまうのです。

「自分で判断できる社員」をつくるには

では、社員が社長に頼らず、自分で判断できるようになるには、何が必要なのでしょうか。

「優秀な人を雇えばいい」と思うかもしれません。でも、いくら優秀でも、入ってきたばかりの人が、いきなり社長と同じ判断をできるはずがありません。判断には、その会社ならではの「ものさし」が必要だからです。優秀なだけの人を放り込んでも、ものさしがなければ判断はできません。立派な定規をもらっても、何を測ればいいか分からないのと同じです。

必要なのは、社長の頭の中にしかない「判断のものさし」を、社員にも見える形で共有することです。

社長は、長年の経験から、なんとなく分かっています。

  • うちは、どんなお客様に選ばれているのか
  • 数あるお店の中から、なぜ、うちを選んでもらえているのか
  • お客様は、どんな不安や悩みを抱えて、うちに来てくれているのか

こうした「お客様を理解する視点」を、社長は感覚で持っています。だから現場で迷わず判断ができる。けれど社員には、その感覚がない。だから判断できない。それだけのことなのです。

つまり、社長がやるべきは、自分の頭の中にしかない「お客様に選ばれる理由」を、社員も使える言葉や仕組みに変換することです。

具体例:町のお弁当屋さんの話

イメージしやすいように、町のお弁当屋さんを例に考えてみましょう。

このお弁当屋さんは、近所のオフィス街で人気のお店です。社長は元料理人で、味にも素材にもこだわりのある方です。お客様から「明日のお昼、ちょっと味薄めにできない?」「30個まとめてお願いできる?」といった相談が入るたびに、社員が「社長、これどうしましょう?」と聞きに来る。社長は一つひとつ判断し、その都度、的確に対応していました。

社長は内心、こう思っています。「これくらい、自分たちで判断してくれないかなぁ」。一方、社員も思っています。「勝手に判断して怒られたら怖いから、聞くしかないんだよなぁ」。お互いに、すれ違っているのです。

そこで社長が腰を据えて、自社の「選ばれる理由」を整理してみました。

  • お客様は誰か:近所のオフィスで働く、健康に気を遣う30〜50代の方たち
  • なぜ選ばれているか:「健康的で、毎日食べても飽きない味」だから
  • お客様の不安は何か:「外食やコンビニばかりで、栄養が偏っている気がする」という不安

これを社員と共有したうえで、判断のものさしも一緒に決めます。たとえば、「健康的という看板を裏切らない範囲なら、味の微調整は受けてOK」「翌日以降の大量注文は、仕込みが回れば基本的に受ける」「ジャンクな揚げ物のリクエストは、丁寧にお断りする」――こんな具合です。

すると、社員は迷わず判断できるようになります。社長にいちいち確認しなくても、「うちのお客様が求めているのはこれ」という共通のものさしがあるからです。

ちなみに、判断基準を共有して一番楽になったのは、社員ではなく社長本人だったりします。今までスマホ片手にお弁当の味付け相談に答えていたのが、ランチ後にゆっくりコーヒーを飲む時間を確保できるようになった――というのも、よく聞く話です。

「売れる仕組み」と「動ける組織」

ここまでの話を整理すると、社長がエースで4番から脱却するためにやるべきことは、シンプルに二つです。

一つは、社長の頭の中にしかない「お客様に選ばれる理由」を、社員も使える形にすること。これが、いわゆる「売れる仕組み」を作るということです。仕組みといっても、難しいシステムや高価なツールが必要なわけではありません。要は、「うちのお客様は誰で、何を求めていて、うちはそれにどう応えるのか」が、社員全員に共有されている状態のことです。

もう一つは、その仕組みをもとに、社員が現場で自分の判断で動ける状態にしておくこと。これが、「成果を出せる組織」をつくるということです。

この二つがそろったとき、会社は社長一人の頭脳の限界を超えて、伸びていきます。社長が決めるべきことは社長が決め、社員が判断できることは社員が判断する。当たり前のようでいて、ほとんどの会社ができていない状態です。

おわりに:社長の仕事は「答えを出す」ことではない

エースで4番を脱却するということは、社長が決めるのをやめる、ということではありません。社長が本当に決めるべきことに、ちゃんと時間とエネルギーを使えるようになる、ということです。

毎日の細かい判断を社員に任せられれば、社長は「3年後、5年後、うちの会社はどこを目指すのか」「次にどんなお客様に来てほしいのか」を考える時間が持てます。社長の本当の仕事は、現場で正解を出すことではなく、社員が自分で正解にたどり着ける会社をつくることなのです。

今日、社員から「これ、どうしたらいいですか?」と聞かれたら、いつものようにすぐ答えを出す前に、ほんの少しだけ立ち止まってみてください。「あなたなら、どうする?」と聞き返すところから、変化は始まります。

最初は答えが返ってこなくて、気まずい沈黙が流れるかもしれません。でもその沈黙こそ、社員が自分の頭で考え始めた合図なのです。

社長が一人で打席に立ち続ける会社から、選手みんなで点を取れる会社へ。その一歩は、社長が「答えを言わない勇気」を持つところから始まります。

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