中小企業のITの悩みトップ3 ――「うちには関係ない」と思っている方こそ、ぜひ

「IT化」「DX」「デジタル活用」。最近、こうした言葉を目にしない日はないくらいです。ニュースを見ても、銀行の案内を見ても、商工会議所のセミナーのチラシを見ても、とにかく「デジタル、デジタル」の大合唱です。

一方で、実際に会社を経営されている方や、現場で働いている方の本音はどうでしょうか。「言いたいことはわかるけれど、うちみたいな規模の会社に、そんな大げさな話は関係ないよ」と感じている方も多いのではないでしょうか。

しかし、いろいろな調査や経営相談の窓口で聞かれる声を集めてみると、中小企業のITに関する悩みには、実はかなりはっきりした「共通パターン」があります。今回はその中でも特によく挙がる悩みを、独断と偏見も少々まじえつつ「トップ3」としてまとめてみました。

読み終わるころに「あ、これうちのことだ」と一つでも思っていただけたら、この記事は成功です。


第1章 悩みその1 「何から手をつければいいのか、わからない」

堂々の第1位は、これです。「IT化が必要なのはわかっている。でも、何から始めればいいのかわからない」。

世の中には、便利そうなITツールが山ほどあります。会計ソフト、勤怠管理、在庫管理、顧客管理、チャットツール、クラウドストレージ……。名前を挙げるだけで息が切れそうです。しかも、それぞれに似たようなサービスが何社も競合していて、比較サイトを開けば「おすすめ20選!」などと出てきます。20もあったら、それはもう「おすすめ」ではなく「一覧」です。

この状態は、たとえるなら「巨大なスーパーに、買い物メモを持たずに放り込まれた」ようなものです。棚には美味しそうなものが並んでいますが、今晩の献立が決まっていなければ、カゴには何も入れられません。あるいは、勢いで入れた結果、家に帰ってから「なぜ私はたこ焼き器を買ったのだろう」と首をかしげることになります。

ここで大切なのは、順番を逆にしないことです。つまり、「どのツールを買うか」から考えるのではなく、「どの仕事が一番困っているか」から考えるということです。

  • 毎月の請求書づくりに丸二日かかっている
  • 電話とメモ書きだけで受注していて、聞き間違いのトラブルが多い
  • 誰がいつ休むのか、社長の頭の中にしか入っていない

こうした「困りごと」を先に一つ選び、それを解決できる道具を探す。この順番にするだけで、選択肢は20から2〜3にまで一気に絞られます。ITは目的ではなく、あくまで困りごとを解決するための道具です。たこ焼き器も、たこ焼きパーティーの予定があれば、立派な買い物なのです。


第2章 悩みその2 「任せられる人がいない」

第2位は、人の問題です。「社内にITに詳しい人がいない」「詳しい人が一人いるが、その人に全部おんぶにだっこで、辞められたら終わる」。この悩みも本当によく聞かれます。

中小企業では、「若いから」という理由だけでパソコン担当に任命される方が少なくありません。本人は営業や製造で入社したはずなのに、気がつけばプリンターの紙詰まりからホームページの更新まで、社内のデジタル関係をすべて背負わされている。いわゆる「ひとり情シス」と呼ばれる状態です(情シスとは「情報システム担当」のことです)。しかも多くの場合、その仕事は本来の業務の「おまけ」扱いで、評価にもつながりにくいのが実情です。

この状態の何が問題かというと、会社の大事な仕組みが「その人の頭の中」にしか存在しなくなることです。パスワードの管理場所、ソフトの契約内容、トラブル時の対処法。すべてが一人に集中していると、その人が退職や長期休暇となった瞬間に、会社のIT環境はブラックボックスになります。金庫の鍵を一本しか作らず、しかもその鍵を誰かのポケットに入れっぱなしにしているようなものです。

対策として、いきなり「IT人材を採用しよう」と考える必要はありません。それができれば苦労しませんし、今はどの会社もIT人材の取り合いです。現実的な一歩は、次のようなことです。

まず、「何をどこで契約していて、パスワードはどう管理しているか」を一覧にして、担当者以外も見られる場所に残すこと。地味ですが、これだけで「ブラックボックス化」のリスクは大きく減ります。次に、簡単な作業(たとえばデータの入力や更新)は、担当者が「やる」のではなく「教える」側に回ってもらい、少しずつ複数人でこなせるようにすること。属人化の解消は、特別な技術より「書き残す」「共有する」という習慣の問題であることが多いのです。


第3章 悩みその3 「お金をかけて、本当に元が取れるのか」

第3位は、お金の悩みです。「導入費用や月額料金を払って、それに見合う効果が本当にあるのか」。経営者であれば、当然の疑問だと思います。

機械を買えば生産量が増える、トラックを買えば運べる荷物が増える。こうした投資は効果が目に見えやすいのですが、ITの効果は「時間の節約」や「ミスの減少」といった、目に見えにくい形で表れることが多いのです。だからこそ、「なんとなく便利そう」だけで導入すると、後で「これ、結局いくら得したんだっけ?」と誰も答えられなくなります。

おすすめしたいのは、導入前に一つだけ数字を決めておくことです。難しい計算はいりません。たとえば「請求書業務にかかっている時間」なら、「毎月16時間かかっている作業が、何時間になったら成功とするか」を決めておく。仮に16時間が4時間になれば、毎月12時間が浮きます。時給換算で考えれば、月額数千円のツール代と比べてどちらが得か、小学生の算数で判断できます。

もう一つ、お金の面で知っておいて損がないのは、国や自治体にIT導入を後押しする補助金・支援制度がいくつも用意されているということです。制度の内容は年度によって変わりますので詳細は割愛しますが、「全額自腹しかない」と思い込む前に、商工会議所や自治体の窓口で一度聞いてみる価値は十分にあります。


第4章 具体例:ある町の部品加工会社の話

ここで、一つ具体例をご紹介します。特定の会社の話ではなく、多くの中小企業に共通する典型的な流れとして、架空の会社を例にした一般的なお話です。

従業員15名ほどの、金属部品の加工会社があるとします。仮に「A社」と呼びましょう。A社の受注は、長年FAXと電話が中心でした。届いたFAXを事務員さんが手書きの台帳に書き写し、それを見ながら工場に指示を出し、月末には台帳とにらめっこしながら請求書を手作業で作る。この請求書づくりに、毎月まるまる二日かかっていました。

ある日、事務員さんがぽつりと言います。「月末になると、電卓のたたきすぎで指がつりそうになるんです」。冗談のようで、切実な話です。

A社の社長は「IT化だ!」と一念発起……はしませんでした。ここがポイントです。代わりに、まず「一番困っているのはどこか」を洗い出しました。すると、困りごとの正体は「同じ情報を、手作業で三回書き写していること」だとわかりました。FAXから台帳へ、台帳から作業指示へ、台帳から請求書へ。書き写すたびに時間がかかり、書き写すたびに転記ミスの危険が生まれていたのです。

そこでA社は、高価なシステムをいきなり入れるのではなく、まず受注内容を一度だけ表計算ソフトに入力し、そこから作業指示と請求書を自動で作れる、月額数千円のクラウドサービスを一つだけ導入しました。使い方を覚えるまでの一、二か月は「前のやり方のほうが早い」という声も出ましたが、三か月目には請求書業務が二日から半日に短縮。転記ミスによる金額の間違いもほぼゼロになりました。

浮いた時間で事務員さんは何をしたか。取引先への納期連絡をこまめに行うようになり、「A社さんは連絡が早くて助かる」と評判が上がったそうです。指がつる心配もなくなりました。

この例のポイントは三つです。第一に、「困りごと」から出発したこと。第二に、いきなり全部を変えず、一か所だけ小さく始めたこと。第三に、「二日が半日になった」という効果を、時間という数字で確認できるようにしたこと。前の章までにお話しした内容が、そのまま詰まった流れになっています。


おわりに

中小企業のITの悩みトップ3、いかがでしたでしょうか。

  1. 何から手をつければいいのかわからない
  2. 任せられる人がいない
  3. お金をかけて元が取れるのか不安

改めて並べてみると、どれも「IT」という言葉の問題というより、「段取り」と「人」と「お金」という、経営の昔ながらのテーマであることに気づきます。つまり、ITの悩みは決して特別なものではなく、普段の経営判断と同じ頭の使い方で向き合えるものなのです。

最初の一歩は、パソコンに向かうことでも、カタログを取り寄せることでもありません。「うちで一番、時間を食っている仕事はどれだろう」と、湯呑みを片手に考えてみることです。その答えが見つかったとき、あなたの会社のIT化は、もう半分始まっています。

もし考えを整理する相手が欲しくなったら、身近な支援機関や専門家に気軽に声をかけてみてください。話しているうちに、頭の中のもやもやが意外なほどすっきり形になるものです。

トップへ戻る
タイトルとURLをコピーしました