「黒塗りしたはずのPDFから、隠したはずの情報が読めてしまった」――そんな事故が、全国で繰り返し起きています。
このページでは、公表されたPDFマスキング(黒塗り・墨消し)の不備による個人情報漏えい事例を時系列で整理し、新しい事例が公表されるたびに追記していきます。掲載する内容は、各組織が公式に発表したお詫び文や報道済みの事実のみとし、それぞれに出典を付けています。特定の組織を批判する意図はなく、「同じ失敗は誰にでも起こりうる」という前提で、そこから学べる教訓を共有することが目的です。
なぜこのような事故が起きるのか、どう防げばよいのかという解説は、別記事「その黒塗り、実は見えています ―― PDF公開前に知っておきたい「マスキングの落とし穴」」をご覧ください。
事例が行政ばかりなのはなぜか ―― 民間企業も他人事ではありません
一覧をご覧いただくと、掲載事例は自治体や警察ばかりです。「やっぱり役所の話か」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
行政機関の事例が目立つのは、情報公開制度への対応など黒塗り作業そのものの件数が多いことに加え、事故が起きたときに公式にお詫びを公表する仕組みがあり、表に出やすいからです。一方、民間企業の場合、書類のやり取りは取引先との間で完結することが多く、同じ失敗が起きても公になりにくいだけ、というのが実態に近いと考えられます。
民間企業でも、黒塗りPDFを扱う場面は身近にたくさんあります。たとえば、金額や取引条件の一部を伏せた契約書のひな形の共有、従業員名簿や顧客リストの一部を隠した資料の提出、金融機関や監査への提出書類、採用・人事関係の書類などです。相手が一社であっても、「剥がせる黒塗り」を送ってしまえば情報漏えいであることに変わりはありません。
また、現在は民間企業にも、個人情報の漏えい等が発生した場合に、一定の要件のもとで国(個人情報保護委員会)への報告や本人への通知が義務付けられています。「取引先だけの話だから」で済ませられる時代ではなくなっています。
このページでは今後、民間企業の公表事例が確認でき次第、同じ基準で追加していきます。
事例一覧(時系列)
| 公表時期 | 組織 | 経路 | 原因タイプ | 対象規模 | 気づかれなかった期間 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025年12月 | 宮城県大崎市 | 情報公開で提供したPDF | 黒塗りが特定の操作で除去可能 | 3件(指摘1件+可能性2件) | ― | 市公式発表 |
| 2026年5月 | 静岡県警察 | 情報公開請求で交付した電子データ | 黒塗り処理の不備(特定ソフトで文字が読める状態) | 氏名・電話番号 計14,239人分 | 約8.5か月 | 報道まとめ |
| 2026年7月 | 富山県南砺市 | ホームページで公開したPDF(地域計画) | マスキングした氏名等が特定の操作で閲覧可能 | 28地区 1,380件 | 約1年4か月 | 市公式発表 |
| 2026年7月 | 福岡県柳川市 | ホームページで公開したPDF(地域計画) | 事務処理に誤りがあり、個人情報配慮のために取るべき措置が不十分 | 3,828人 | 約3.5か月 | 市公表資料 |
| 2026年8月 | 兵庫県 | 情報公開請求で交付した電子データ | 黒塗り処理の不備(特定ソフトで文字が読める状態) | 92人 | 約1か月 | NHK |
| 2026年8月 | 鹿児島県大島郡和泊町 | ホームページで公開したPDF(和泊町いじめ問題調査委員会による調査報告書) | デジタル文書公開時のチェック体制の不徹底 | 不明 | 約10日 | 町公式発表 |
※「気づかれなかった期間」は、公開・交付の開始から不備の発覚までのおおよその期間です。
各事例のポイント
宮城県大崎市(2025年12月公表)
情報公開制度により提供した一部のPDFファイルで、個人情報保護のために設定した黒塗り加工が、特定の操作を行うことで除去できる状態だったことが、外部からの情報提供で判明した事例です。指摘のあった1件のほか、同様の可能性があるものが2件確認されました。
教訓: 発覚のきっかけは、内部の点検ではなく外部からの指摘でした。「指摘されるまで気づけない」のがこの種の事故の典型で、公開前の自主的な確認(剥がしテスト)の重要性を示しています。
静岡県警察(2026年5月公表)
公文書の開示請求に対して交付した電子データに黒塗り処理の不備があり、特定のソフトウェアを使うなどの操作で黒塗りの下の文字が読める状態のまま、計14,239人分の氏名や電話番号が交付されていた事例です。パソコンの画面上では適正に処理できているように見えたため、担当者本人も確認役の上席も目視では不備に気づけず、約8.5か月にわたり不完全なデータが交付され続けました。
教訓: この事例の恐ろしさは、「本人も確認者も、見た目では絶対に気づけなかった」という点です。目視のダブルチェックだけでは防げないことがはっきり示されました。チェックは「見る」のではなく、コピー&ペーストや検索で「剥がしてみる」操作込みで行う必要があります。
富山県南砺市(2026年7月公表)
ホームページで公開していた「地域計画」のPDFで、見えない状態(マスキング処理)にしたはずの氏名等が、閲覧者の特定の操作で読める状態になっていた事例です。対象は28地区・1,380件。2025年3月の掲載から発覚まで約1年4か月間、その状態が続いていました。こちらも発覚のきっかけは外部(県)からの指摘でした。
教訓: 誰でもアクセスできるホームページ上に、1年以上「剥がせる黒塗り」が置かれていたことになります。窓口で手渡す書類と違い、Web公開は影響範囲が読めません。公開するファイルほど、公開前の確認を厳重にする必要があります。
福岡県柳川市(2026年7月公表)
富山県南砺市の事例とほぼ同じで、ホームページで公開していた「地域計画」のPDFで、見えない状態(マスキング処理)にしたはずの氏名等が、閲覧者の特定の操作で読める状態になっていた事例です。対象は3,828人。2026年3月30日の更新から発覚まで約3.5か月間、その状態が続いていました。発覚のきっかけは公表なし。
教訓: 誰でもアクセスできるホームページ上に、「剥がせる黒塗り」が置かれていたことになります。窓口で手渡す書類と違い、Web公開は影響範囲が読めません。公開するファイルほど、公開前の確認を厳重にする必要があります。
兵庫県(2026年8月公表)
静岡県警察の事例とほぼ同じで、公文書の公開時の事例です。開示した電子ファイルに記載された92人分の名前と住所、メールアドレス計212件の黒塗り処理が不十分だったため、編集ソフトで操作すると閲覧できる状態になっていた事例です。対象となった公文書は、6月3~5日に県ホームページを通じて県政への提案を受ける「さわやか提案箱」に寄せられた意見の電子ファイル。
広報広聴課によると、本来は寄せられた意見のデータファイルをPDF形式にして該当部分を黒塗り処理したうえで、印刷し、さらにそれをスキャンして、黒塗りが外れないようにして公開用の電子ファイルを作成するところ、職員が誤って、スキャンする前の状態でファイルを送信してしまったということです。
教訓: 定められた手順があったとしても、画面上で見ただけでは正しく処理されているのか判断が難しいです。チェックリストや事例を基にPDFファイルの公開前に十分なチェックが必要です。
和泊町(2026年8月公表)
町が公表した文書によると、ウェブサイトに掲載した「和泊町いじめ問題調査委員会による調査報告書」(令和8年2月22日)に対して実施した個人情報保護のための処理が脆弱な点があったとのことです。
再発防止策として、2つ挙げられています
- 文書公開プロセスの強化:デジタル文書公開時の情報処理専用ツールの利用や確実な情報削除方法を義務化します。公開前の複数職員によるチェック体制を強化します。
- 職員研修の徹底:個人情報保護および情報セキュリティに関する職員研修を定期的に実施し、意識向上を図ります。
教訓: 特に気を付けるべき「いじめ問題の調査報告書」であっても正しく処理されているかどうかは画面では判別することができません。チェックリストや事例を基にPDFファイルの公開前には十分なチェックが必要です。
※仕組みとして変わっていなければ、再発防止策は機能しないでしょう。どうなることやら?
事例に共通すること
ほとんどの事例には共通点があります。
- 原因は高度な攻撃ではなく、「黒い図形をかぶせただけ」型の処理ミスであること。 どの事例も「特定の操作」、つまりコピー&ペーストや編集ソフトでの操作程度で情報が読めてしまう状態でした。
- 見た目では不備に気づけず、発覚まで長期間かかっていること。 数か月〜1年以上、誰にも気づかれていません。担当者にも確認者にも悪意はなく、画面上は完璧に見えていたのです。
- 発覚のきっかけは外部からの指摘であること。 自分たちで見つけられた事例は、今のところありません。
つまり、「注意深い人が目で確認する」体制では、この事故は防げません。防げるのは、データごと消す正しい墨消し処理と、公開前にコピー&ペーストと検索で実際に剥がしてみるテストの2つだけです。そしてこれらの教訓は、組織の規模や官民の別を問わず、黒塗りPDFを外部に出すすべての組織に当てはまります。具体的な手順は解説記事にまとめています。
このページの更新について
新たな事例が公表され次第、このページに追記します。掲載対象は自治体・官公庁に限らず、民間企業・団体の公表事例も含みます。「こんな事例が公表されていた」という情報提供も歓迎します。また、自社のマスキング手順に不安のある方は、お気軽にご相談ください。