「経営計画なんて作っても意味がない」「計画を立てても、その通りになったためしがない」——こうした声を耳にすることは少なくありません。一方で「計画がないと会社は迷走する」という意見も根強くあります。今回は、この「経営計画は不要か」というテーマについて、両方の立場から考えてみたいと思います。
「経営計画は不要」という意見にも一理ある
まず、経営計画を不要と考える人たちの主張を整理してみましょう。
一番よく聞かれるのは「計画通りに進むことなどない」というものです。市場環境は変化し続けますし、思わぬ競合の参入や、突然の原材料高騰、あるいは去年まで誰も予想していなかった技術の登場などで、前提条件はあっという間に崩れてしまいます。時間をかけて緻密な計画を作っても、半年後には現実と乖離してしまい、結局は「絵に描いた餅」になってしまう、というわけです。
また、計画作りそのものに時間と労力を取られすぎるという指摘もあります。分厚い資料を作ることが目的化してしまい、肝心の「今日何をするか」がおろそかになってしまっては本末転倒です。特に小規模な組織では、計画書を作る時間があれば、その分を実際の営業活動や商品開発に充てたほうがよい、という考え方にも十分な説得力があります。
さらに、計画に縛られることで身動きが取れなくなるリスクも挙げられます。「計画にないから」という理由だけで、目の前に転がってきた良いチャンスを逃してしまうケースもあるでしょう。変化のスピードが速い時代においては、計画よりも直感やスピード感を重視すべきだという主張は、決して的外れではありません。
それでも経営計画に意味があると言える理由
一方で、経営計画には不要論だけでは片付けられない役割もあります。
第一に、経営計画は「未来を当てるための道具」ではなく、「今の判断を助けるための道具」だという捉え方です。計画が外れること自体は、実はそれほど問題ではありません。大切なのは、計画を作る過程で「自分たちは何を目指しているのか」「そのために何を優先すべきか」を整理できることです。数字がズレたとしても、目指す方向性さえ共有できていれば、途中で軌道修正しながら進むことができます。
第二に、計画があることで、周囲との共通言語ができるという利点があります。一人で仕事をしているならともかく、複数人で動く組織では、頭の中にある考えを言葉や数字にして共有しなければ、メンバーの足並みは揃いません。「なんとなくこっちの方向で頑張ろう」というだけでは、人によって解釈がバラバラになりがちです。
第三に、金融機関や取引先といった外部との関係においても、計画は一定の役割を果たします。もちろん「銀行に見せるためだけの計画」になってしまっては本末転倒ですが、自社の考えを筋道立てて説明できる資料があることは、信用を得るうえで無駄にはなりません。
第四に、そしてこれが意外と見落とされがちなのですが、計画がなければ「振り返り」ができないという問題があります。よく「PDCAを回しましょう」と言われますが、そもそも最初のP(Plan)がなければ、C(Check)のしようがありません。何と比べて「うまくいった」「うまくいかなかった」と判断すればよいのか、基準がないのです。行き当たりばったりで仕事をしていると、結果が良くても悪くても「まあ、そういうこともあるか」で終わってしまい、次に活かせる学びが積み上がっていきません。計画があってはじめて、実績との差を確認し、「なぜズレたのか」「次はどう手を打つか」を考えることができます。つまり計画は、未来を予言するためではなく、後から振り返って成長するための「比較対象」を用意する作業だとも言えます。
たとえるなら「旅行の計画」
イメージしやすいように、旅行の計画に例えてみましょう。
旅行に行くとき、分刻みのスケジュールをびっちり組む人もいれば、行き先だけ決めてあとは現地の気分で動くという人もいます。どちらが正しいというものではありません。ただ、行き先すら決めずに空港に向かう人は、さすがにあまりいないのではないでしょうか。「とりあえず海外のどこか」という気持ちで飛行機に飛び乗ったら、気づけば真冬のコートを持たずに極寒の地に降り立っていた、という笑えない話になりかねません。
経営計画もこれと似ています。分刻みの精密さまでは求めなくても、「どこに向かうのか」「そのためにどんな手段があるのか」という大枠だけは決めておいたほうが、途中で道に迷ったときにも軌道修正がしやすくなります。逆に、行き先を決めすぎて、天気が急に崩れているのに「予定通りだから」と山登りを強行してしまうようでは、それはそれで困りものです。
結局、どう考えればよいか
ここまで見てきたように、「経営計画は不要だ」という意見にも、「経営計画には意味がある」という意見にも、それぞれ一理あります。おそらく本質的な問いは「計画を作るか作らないか」ではなく、「どのくらいの粒度で、どのように使うか」なのではないかと思います。
分厚い計画書を毎年作ることだけが正解ではありません。一方で、まったく何も考えずに日々の業務だけに追われていると、気づいたときには方向性を見失っていた、ということも起こり得ます。大切なのは、計画を「作ること」自体を目的にせず、状況に応じて更新し続けられる、身の丈にあった形にしておくことではないでしょうか。
計画はあくまで地図のようなものです。地図があるからといって、その通りの道を無理に進む必要はありません。天候や道路状況を見ながら、時にはルートを変えればよいのです。大事なのは、そもそも地図を持たずに出発しないこと、そしてその地図を、状況に合わせて書き直す柔軟さを持っておくことなのだと思います。

ミタスサポート事務所代表。富山県で中小企業向けに経営とIT支援を行っています。
中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。
小さな事業者向けに小回りの利くITサービスやサイバーセキュリティ対策に力を注いでいます。
