「今年こそは毎朝走るぞ」と決意して買ったランニングシューズが、玄関で静かにホコリをかぶっている。「英語を勉強しよう」と買った単語帳が、枕としてちょうどいい高さになっている。そんな経験はないでしょうか。
新しいことを始めても続かない。多くの方が「自分は意志が弱いから」と落ち込みます。しかし、まずお伝えしたいのは、続かないのは意志が弱いからではない、ということです。
人間の脳は、もともと「変化を嫌い、いつも通りを好む」ようにできています。新しい習慣が続かないのは、性格の問題ではなく、いわば「人間の仕様」なのです。パソコンが熱くなるとファンが回るのと同じくらい、自然な反応だと思ってください。
では、どうすれば続けられるのか。答えは「気合を入れ直すこと」ではなく、続けざるを得ない「仕組み」をつくることです。今回は、個人の習慣から会社の取り組みまで幅広く使える「継続するための仕組みづくり」についてお話しします。
第1章:なぜ「気合」と「根性」では続かないのか
何かを続けようとするとき、多くの人は「やる気」に頼ります。しかし、やる気には大きな弱点があります。それは、日によって在庫量がまったく違うということです。
やる気が満タンの日は、何でもできる気がします。一方で、仕事で疲れた日、嫌なことがあった日、雨の日、なんとなく気分が乗らない日。そんな日のやる気は、財布の中の小銭くらいしか残っていません。
そして厄介なことに、人生は「やる気が出ない日」のほうが圧倒的に多いのです。つまり、やる気に頼った継続は、「晴れの日しか動かない車」で毎日通勤しようとするようなものです。最初から無理があります。
一方で、私たちが毎日続けられていることを思い出してみてください。歯磨き、お風呂、朝のコーヒー。これらを「今日はやる気が出ないから歯磨きをやめよう」と考える人は、ほとんどいないはずです。
なぜ続くのか。それは、やる気を使わずにできる「仕組み」になっているからです。決まった時間に、決まった場所で、考えなくても体が動く。継続の正体は根性ではなく、この「考えなくてもできる状態」にあります。
第2章:継続の仕組みづくり、3つのポイント
では、どうすれば「考えなくてもできる状態」をつくれるのか。ポイントは3つです。
ポイント1:ハードルを「笑ってしまうくらい」低くする
続かない人の多くは、最初の目標が高すぎます。「毎日1時間走る」「毎日腕立て100回」。立派な目標ですが、やる気が小銭しか残っていない日には、絶対に達成できません。
そこでおすすめなのが、ハードルを思い切り下げることです。それも、「そんなの意味あるの?」と笑ってしまうくらいまで下げます。
- 毎日1時間走る → 毎日ランニングシューズを履いて玄関を出る
- 毎日1時間勉強する → 毎日教科書を開く
- 毎日日記を書く → 毎日1行だけ書く
「玄関を出るだけでいいの?」と思われるかもしれません。しかし、人間は不思議なもので、一度始めてしまえば「せっかくだからもう少しやろうか」となることが多いのです。逆に、始めるまでのハードルが高いと、永遠に始まりません。
大事なのは「今日もできた」という事実を毎日積み重ねることです。ゼロと1の差は、1と100の差よりも大きいのです。
ポイント2:「いつ・どこで・何をするか」をあらかじめ決めておく
「時間があるときにやろう」は、「やらない」とほぼ同じ意味です。時間は、待っていても空きません。
そこで、既にある習慣に、新しい習慣をくっつけるという方法が効果的です。
- 朝のコーヒーを淹れたら、その場で手帳を開く
- 歯磨きが終わったら、スクワットを5回する
- 会社に着いて席に座ったら、まず今日やることを3つ書く
「コーヒーを淹れたら」のように、すでに毎日やっていることを「きっかけ」にすると、新しい習慣を思い出す手間がなくなります。意志の力ではなく、「流れ」で動けるようになるのです。
ポイント3:記録して「見える化」する
人間は、積み上がっていくものを見ると、壊したくなくなる生き物です。
カレンダーに、できた日は丸をつける。ただそれだけでも、丸が10個、20個と並んでくると、「ここで途切れさせるのはもったいない」という気持ちが働きます。手帳でも、スマホのアプリでも、冷蔵庫に貼った紙でも構いません。
ポイントは、頑張りを目に見える形にすることです。記録は、過去の自分からの「ここまで来たんだから、やめるなよ」という応援メッセージになります。
第3章:具体例 ランニングが続かなかったAさんの話
ここで、よくある例をひとつご紹介します。
会社勤めのAさんは、健康診断の結果を見て一念発起し、「毎朝5時に起きて1時間走る」と決めました。初日は達成。2日目も達成。3日目、雨。4日目、前日の疲れ。5日目には、ランニングシューズは玄関のオブジェになっていました。三日坊主どころか、二日半坊主です。
そこでAさんは、作戦を変えました。
まず、目標を「会社から帰ったら、着替えて外に出る」だけにしました(ポイント1:ハードルを下げる)。走らなくてもいい。外に出れば、その日はクリアです。
次に、「帰宅してカバンを置いたら、すぐ着替える」と決めました(ポイント2:きっかけを決める)。ソファに座ってしまうと二度と立ち上がれないことを、Aさんは経験上よく知っていたからです。ソファには人を吸い込む機能がついています。
そして、外に出られた日はカレンダーにシールを貼ることにしました(ポイント3:見える化)。
結果はどうなったか。外に出ると「せっかくだから」と5分は歩くようになり、5分が10分になり、気づけば軽く走るようになりました。半年後、Aさんは毎日20〜30分のランニングを、特に頑張っている意識もなく続けていたそうです。
注目していただきたいのは、Aさんの意志が強くなったわけではない、という点です。変わったのは本人ではなく、仕組みのほうでした。
第4章:会社の取り組みも、まったく同じです
ここまで個人の習慣の話をしてきましたが、実はこの考え方、会社経営にもそのまま当てはまります。
たとえば、「日報を書こう」「整理整頓を徹底しよう」「会議で決めたことを実行しよう」。多くの会社で掲げられる目標ですが、続かないケースが少なくありません。そして続かないと、「うちの社員はやる気がない」という話になりがちです。
しかし、ここまでお読みいただいた方はもうお気づきでしょう。続かないのは、社員のやる気の問題ではなく、仕組みがないことが原因かもしれないのです。
- 日報が続かない → 項目を3つに絞り、3分で書ける形式にする(ハードルを下げる)
- 整理整頓が続かない → 「終業前の5分間」と時間を決めて全員で行う(きっかけを決める)
- 決めたことが実行されない → 進み具合を壁の表に貼り出し、毎週みんなで眺める(見える化)
「頑張れ」と言う代わりに、「頑張らなくてもできる形」を用意する。これが、続く組織をつくるコツです。
おわりに:意志を責めるより、仕組みを疑う
何かが続かなかったとき、自分や周りの「意志の弱さ」を責めたくなります。しかし、責めても何も変わりません。玄関のランニングシューズも、枕になった単語帳も、あなたを責めてはいません。ただ、仕組みを待っているだけです。
続かなかったら、こう考えてみてください。
「意志が弱かったのではない。仕組みが足りなかっただけだ」
そして、ハードルを下げ、きっかけを決め、記録する。この3つを試してみてください。個人の習慣でも、会社の取り組みでも、驚くほど景色が変わるはずです。
継続は力なり、と言います。しかし、その一歩手前に、もうひとつ大事な言葉があると私は思っています。
仕組みは、継続なり。
まずは今日、笑ってしまうくらい小さな一歩から始めてみませんか。

ミタスサポート事務所代表。富山県で中小企業向けに経営とIT支援を行っています。
中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。
小さな事業者向けに小回りの利くITサービスやサイバーセキュリティ対策に力を注いでいます。

