何を言うかよりも、何を行うか 〜「やりましょう」と言うだけなら、誰でもできます〜

経営者さんから、こんな話を聞いたことがあります。

「以前、コンサルタントさんに相談したんです。そうしたら、『在庫管理をしっかりやりましょう』『資金繰り表を作りましょう』『顧客リストを整備しましょう』とアドバイスをいただきまして。ええ、もう、ごもっともです。本当にごもっとも。……でも、それができないから困っているんですよ」

このお話を聞いたとき、私は思わず苦笑いをしてしまいました。なぜなら、これはコンサルタント業界の、かなり核心を突いた指摘だからです。

今回は、私たち支援する側の人間が、もう一度立ち止まって考えたい話を書いてみます。

第1章:正論を言うのは、実は一番簡単な仕事です

「在庫管理をちゃんとしましょう」と言うのに、必要なスキルはほとんどありません。ビジネス書を一冊読めば言えますし、なんなら今ならネットで5分検索すれば言えます。

「資金繰り表を作りましょう」も同じです。「顧客満足度を高めましょう」も「業務を見える化しましょう」も「DXを進めましょう」も、すべて同じ構造です。

これらは正しい指摘ですし、間違ってもいません。問題は、それを言ったあとに何が起きるか、です。

経営者さんの頭の中では、おそらくこんな声が響いています。

「うん、そうだよね。在庫管理、大事だよね。やったほうがいいに決まってる。……で、どうやって?うちの倉庫、棚卸しすら年に1回しかやってないし、システムも入ってないし、入力する人もいないし、そもそも商品コードがバラバラだし、社長である私自身、エクセルもおぼつかないし……」

経営者さんが本当に欲しいのは、「やりましょう」という号令ではなく、「ここから始めましょう」という具体的な一歩なのです。

第2章:ある架空の現場で、よくある光景です

ここで、ひとつ具体的な場面を想像してみましょう。

ある町工場の社長さんが、資金繰りに不安を感じてコンサルタントに相談しました。コンサルタントはひととおり話を聞き、こうおっしゃいました。

「社長、まずは資金繰り表を作りましょう。これがないと経営判断ができません。月次で向こう3か月分、できれば6か月分の入出金を見える化することが大切です」

社長さんは深くうなずきます。「ええ、たしかにその通りです。作ります」

そして1か月後、コンサルタントが訪問すると、資金繰り表は影も形もありません。社長さんは申し訳なさそうに「いやあ、忙しくて手が回らなくて」とおっしゃいます。

ここでよくないコンサルタントは、「社長、やる気の問題ですよ。経営者として……」と説教を始めてしまいます。これでは契約は終わりに向かって一直線です。

一方、行動できるコンサルタントは違います。

「社長、ノートパソコン開けてください。今から一緒に作りましょう。まず、預金通帳を直近3か月分出してください。あと、買掛金の支払い予定表ありますか?なければ、未払いの請求書を全部かき集めてきてください。今日は3時間ほど時間ください。骨組みだけでも完成させますから」

このあと、ふたりはコーヒーを片手に、エクセルとにらめっこを始めます。途中で社長さんが「あ、これ抜けてた」と引き出しから別の請求書を出してきたり、「この入金、いつだっけ」と取引先に電話したりしながら、3時間後にはなんとか1枚の表ができあがります。

完璧ではありません。むしろ穴だらけです。けれども、ゼロが1になりました。この差は、想像以上に大きいのです。

第3章:「作り方」を支援できるかどうかが、分かれ道です

在庫管理にしても、資金繰り表にしても、顧客管理にしても、すべて同じ構造があります。「やったほうがいい」のは誰でも知っています。問題は、「どうやってやるのか」が、現場の人にとっては地味に難しいということです。

たとえば在庫管理ひとつ取っても、こんな疑問が次々に湧いてきます。

エクセルでやるべきか、専用ソフトを入れるべきか。商品コードはどうつけるか。誰が入力するのか。タイミングはいつか。棚卸しはいつやるのか。差異が出たときどうするのか。バックヤードの整理はどこから手をつけるのか。古い不動在庫はどうするのか。

「在庫管理をしましょう」のひと言の裏側には、こうした実務的な疑問が、それこそ100個ぐらい潜んでいます。これを一つひとつ、現場の状況に合わせて一緒に解いていけるかどうか。ここが、本当の意味での支援が始まる場所です。

正論を言うコンサルタントは、ここで「あとはお任せします」と退場します。 行動するコンサルタントは、ここから「では一緒にやりましょう」と参加します。

この差は、ほんのひと言の違いに見えますが、クライアントから見える景色はまったくの別物です。

第4章:自分自身への、ちょっとした問いかけです

私もコンサルタントを名乗っている以上、自分自身に問わなければならないことがあります。

「私は今日、クライアントが本当に必要としていた『どうやって』に、何個答えられただろうか」

「ちゃんとやりましょう」と言って終わっていないか。「重要です」と指摘して満足していないか。きれいな提案書を出して、それで仕事をした気になっていないか。

正直なところ、気を抜くとすぐに「言うだけの人」に戻ろうとしてしまいます。なぜなら、そのほうが圧倒的に楽だからです。エクセルを一緒にいじったり、倉庫で段ボールの中身を確認したり、取引先に電話するのを横で見守ったりするのは、地味で、時間がかかり、見栄えもよくありません。

けれども、クライアントの数字を本当に動かすのは、たぶん、その地味な作業のほうです。立派なパワーポイントではなく、社長さんと一緒に作った、ちょっと不格好なエクセルのほうなのです。

おわりに:「やりましょう」の次のひと言が、私たちの価値を決めます

「在庫管理をしましょう」「資金繰り表を作りましょう」と言えるコンサルタントは、世の中に山ほどいます。書店に行けば、似たようなことが書かれた本がずらりと並んでいますし、最近はAIに聞いても同じようなことを答えてくれます。

私たちコンサルタントの仕事の価値が問われるのは、その次のひと言です。

「では、一緒に作りましょうか」

このひと言を、本気で、行動を伴って言えるかどうか。ここに、支援される側にとっての本当の価値があるのだと、私は思っています。

明日、クライアントの前で、立派なことを言うのは少し控えめにして、その代わりに袖をまくって、一緒にエクセルを開いてみる。そんなコンサルタントでありたいと、自分自身に言い聞かせながら、今日も現場に向かう準備をしています。

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