社内研修していますか? ~「うちは忙しいから」で済ませていませんか~

「社内研修」と聞いて、どんなイメージが浮かびますか?

眠たい会議室、分厚い資料、一方的に話し続ける講師、そしてなぜか異様に効きすぎた冷房――。もしそんな景色が頭をよぎったなら、それはおそらく「あまり良い研修」に出会えていなかったのかもしれません。

しかし、このブログを読んでくださっている経営者の皆さま、あるいは組織運営に携わる皆さま。少しだけ立ち止まって考えてみてください。御社では、社内研修を定期的に実施していますか?

「うちは小さい会社だから」「忙しくてそんな余裕はない」「やったところで意味があるのか」――そういった声は、本当によく聞きます。気持ちはとてもわかります。日々の業務を回すだけで精一杯なのに、研修なんかに時間を割けるか、と。

ただ、あえてお伝えしたいのです。その「忙しい」の正体は、もしかすると研修をやっていないことが原因かもしれません。

本記事では、社内研修の意味や効果を改めて整理し、「うちもちょっとやってみようかな」と思っていただけるようなお話をさせていただきます。

第1章 なぜ社内研修が必要なのか

「仕事は見て覚えろ」の限界

かつて多くの職場では、「仕事は先輩の背中を見て覚えるものだ」という文化がありました。もちろん、現場で体を動かしながら学ぶことの大切さは今も変わりません。しかし、この方法には大きな弱点があります。

教える側の力量に完全に依存してしまう、ということです。

Aさんが教えればこうなり、Bさんが教えればああなる。同じ業務なのに、人によってやり方がバラバラ。結果として、品質にムラが出る。お客さまからのクレームが増える。それを「あいつのせいだ」と個人の問題にしてしまう。こうした悪循環に陥っている組織は、残念ながら少なくありません。

社内研修は、この「属人化」を防ぐための最も基本的な仕組みです。「この会社ではこうやる」というスタンダードを全員で共有する場。それが研修の本質的な役割です。

人は忘れる生き物です

有名な「エビングハウスの忘却曲線」をご存じの方も多いでしょう。人間は、学んだことの約70%を24時間以内に忘れてしまうと言われています。つまり、入社時に一度教えただけで「もう教えたよね?」は、ちょっと酷なのです。

定期的に研修を行うということは、大事なことを繰り返し伝えるということでもあります。しつこいくらいがちょうどいい。大事なことは、何度言ってもいいのです。(ただし、言い方は工夫したいところです。同じ資料を毎回読み上げるだけだと、今度は別の意味で「忘れられない研修」になってしまいます。悪い意味で。)

第2章 「うちには関係ない」は本当か

中小企業こそ研修が効く

「研修は大企業がやるもの」という思い込みがあります。確かに、大企業には専門の研修部門があり、立派な研修施設を持っているところもあります。そうしたイメージが先行してしまうのは無理もありません。

しかし、実は中小企業こそ研修の効果が出やすいのです。なぜなら、一人ひとりが組織に与える影響が大きいからです。

社員100人の会社で1人が成長しても、全体への影響は1%です。でも、社員10人の会社で1人が成長すれば、それは10%の変化です。たった1人の意識や能力が変わるだけで、組織全体の空気がガラッと変わる。これは大企業にはなかなか起こりにくいダイナミズムです。

研修=高額な外部セミナー、ではない

「研修にはお金がかかる」というのも、よくある誤解です。もちろん、外部の講師を招いたり、大きな会場を借りたりすれば費用はかかります。しかし、社内研修の基本は、社内の人が社内の人に教えることです。

たとえば、毎週30分、持ち回りで「自分の仕事のコツ」を発表する時間を設けるだけでも立派な研修です。特別な予算は要りません。必要なのは「やろう」という意思決定だけです。

第3章 具体的にどう始めるか ~ある製造業の事例から~

ここで、ひとつ一般的な事例をご紹介します。

ある従業員30名ほどの製造業の会社で、以前からこんな課題がありました。

  • ベテラン社員と若手社員で作業品質に差がある
  • 同じミスが繰り返し発生する
  • 「誰がやっても同じ品質」にならない

経営者としては頭の痛い問題です。しかし、日々の受注対応に追われ、根本的な対策を打てないまま時間だけが過ぎていました。

そこで、まずは月に1回、就業時間内に1時間だけ「勉強会」を実施することにしました。内容はとてもシンプルです。

「先月起きたミスや困りごとを共有し、なぜ起きたのか、どうすれば防げるかを全員で考える」

これだけです。外部の講師も呼んでいません。特別な資料も最初は用意しませんでした。ホワイトボード1枚で始めたそうです。

最初の数回は、正直なところ「シーン……」という空気だったようです。誰だって、自分のミスを人前で話すのは気が引けるものです。しかし、ここで経営者自らが「実は先月、自分もこういう判断ミスをした」と口火を切ったことで、少しずつ場の空気が変わり始めました。

3か月ほど経つと、こんな変化が出てきました。

まず、同じ種類のミスが明らかに減りました。なぜなら、一度全員の前で「なぜこのミスが起きるのか」を掘り下げた問題は、自然と意識されるようになるからです。次に、ベテラン社員が持っていた「暗黙のコツ」が言語化されるようになりました。「なんとなくこうしている」が「こういう理由でこうする」に変わると、若手にも伝わりやすくなります。そして何より、部署や世代を超えたコミュニケーションが増えました。

たった月1回、1時間の取り組みです。これが半年、1年と続くことで、組織全体の底上げにつながっていきます。

第4章 研修を続けるための4つのポイント

ポイント1:準備をしすぎない ~続けるコツは「がんばらない」こと~

研修を始めようとすると、つい「ちゃんとしたカリキュラムを作らなければ」「資料を整えなければ」と身構えてしまいがちです。その結果、準備に時間がかかりすぎて「やっぱり今月は無理だ」となる。よくあるパターンです。

はっきり申し上げます。研修が続かない最大の原因は、準備のしすぎです。

きれいなスライドを作り込む必要はありません。立派なレジュメを用意する必要もありません。準備に2時間かかる研修を月1回やるよりも、準備15分で済む研修を毎月確実にやるほうが、長い目で見れば圧倒的に効果があります。

極端な話、「今月あった困りごと」をホワイトボードに書き出して、みんなで話すだけでいい。テーマだけ決めておいて、あとは当日の対話に任せる。この「ゆるさ」が、実は継続の生命線です。

完璧な研修を年に1回やるよりも、60点の研修を12回やるほうがずっと価値があります。走りながら改善すればいい。回を重ねるうちに、自然とやり方も洗練されていきます。「準備が大変だからやめよう」――これが一番もったいないのです。

ポイント2:全員が「講師」になる ~自分以外は皆、師匠~

社内研修というと、「詳しい人が教え、詳しくない人が教わる」という構図を想像しがちです。しかし、ここで発想を転換してみてください。

社内研修の講師は、特定の誰かに固定しないほうがいいのです。

営業の人は営業のプロです。製造の人は製造のプロです。経理の人は数字のプロです。新入社員だって、最新のITツールやSNSの使い方では大先輩を上回る知識を持っていることがあります。つまり、どんな人でも「教えられること」を必ず持っています。

全員が順番に講師役を担う。これが、社内研修を活きたものにするための大きなポイントです。

この仕組みには、いくつもの良い効果があります。

まず、社員同士の間に「対等さ」が生まれます。 いつも教わる側だった若手が講師として前に立ち、ベテランが「へぇ、知らなかった」とメモを取る。この逆転が起きると、組織の中にある見えない上下関係がほぐれていきます。普段は部下に指示を出しているベテランが、若手社員のExcel講座で「え、そんなショートカットあったの?」と目を丸くしている光景は、なかなか微笑ましいものです。

次に、教える側が一番成長します。 人に説明しようとすると、自分の中で「なんとなくわかっている」ことを整理し直す必要が出てきます。「わかっているつもり」と「人に教えられる」の間には、実はかなりの距離があります。講師役を経験することで、その人自身の理解が何段階も深まるのです。

そして何より、「自分にも教えられることがある」という実感は、社員の自己肯定感を高めます。 「自分なんかが人前で話すことなんてない」と思っていた人が、同僚から「すごくわかりやすかった」「明日から使ってみる」と言われる。この体験は、日常業務の中ではなかなか得られないものです。

「自分以外は皆、師匠」――そのくらいの気持ちで、お互いの知恵や経験を引き出し合う場にしてみてください。社長もベテランも新人も、教わる側になれる場。それが本当に豊かな研修です。

ちなみに、講師を持ち回りにするもうひとつの実務的なメリットがあります。準備の負担が分散されるので、特定の誰かが疲弊しない。 毎回同じ人が資料を作って、段取りを考えて、当日しゃべって……では、その人が忙しくなった瞬間に研修が止まります。全員で回せば、一人あたりの負担は年に数回で済みます。これも「続ける」ための大事な工夫です。

ポイント3:「やらされ感」をなくす工夫

研修が失敗する最大の原因は「やらされ感」です。「また社長が何か始めたぞ」「面倒くさいな」――こうした空気が蔓延すると、どんなに良い内容でも効果は半減します。

おすすめは、社員自身に研修の内容や運営に関わってもらうことです。テーマを社員から募集する、進行役を持ち回りにする、感想を気軽に言い合える場にする。「自分たちの研修」という当事者意識が生まれると、驚くほど場の空気が変わります。

余談ですが、ある会社では研修のテーマを社員投票で決めるようにしたところ、最初に選ばれたテーマが「効率的なサボり方」だったそうです。さすがにそのままは採用されなかったようですが、「業務効率化」というテーマに昇華されて、結果的にとても実りのある回になったとか。人は、自分が選んだことには不思議と前向きになれるものです。

ポイント4:経営者(またはリーダー)自身が参加する

「研修は現場の人間がやればいい。自分は忙しい」――気持ちはわかりますが、これはあまりおすすめしません。

トップが参加しない研修は、社員にとって「重要ではないもの」に映ります。逆に、トップ自ら参加し、自分の考えや悩みを共有することで、研修の場が「経営と現場をつなぐ場」になります。

「社長も知らないことがあるんだ」「社長もミスをするんだ」という発見は、社員にとって安心材料になります。完璧でなくていい、という空気は、上から作るものです。

第5章 研修で得られる「目に見えにくい効果」

研修の効果として、スキルの向上やミスの削減といった「目に見える成果」はわかりやすいものです。しかし、実はそれ以上に大切な「目に見えにくい効果」があります。

ひとつは、共通言語ができることです。同じ研修を受けることで、組織の中に共通の知識や考え方のベースが生まれます。「あの研修で話したあれだよ」で通じ合える。これは日常のコミュニケーションコストを大幅に下げてくれます。

もうひとつは、「この会社は社員を大切にしている」というメッセージになることです。研修に時間とお金を投資するということは、「あなたたちの成長に関心がある」という経営者のメッセージそのものです。このメッセージは、給与やボーナスとはまた違った形で、社員の心に届きます。

採用が難しい時代です。人が辞めにくい組織をつくることは、今や最重要の経営課題のひとつです。研修は、その土台になり得るものです。

おわりに ~まずは一歩、踏み出してみませんか~

ここまで読んでくださった方の中には、「言いたいことはわかるけど、うちはやっぱり難しいよ」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。

でも、こう考えてみてはどうでしょう。

「研修をやる余裕がない」のではなく、「研修をやっていないから余裕がない」のかもしれない、と。

同じミスが繰り返される。伝えたはずのことが伝わっていない。人が育たない。これらの問題に毎日対処し続けるコストと、月1回・1時間の研修を継続するコスト。どちらが大きいでしょうか。

大がかりなことをする必要はありません。まずは来月、1時間だけ、社員と一緒に「最近困っていること」を話し合ってみてください。それが御社の社内研修の第一歩です。

小さく始めて、少しずつ育てていく。研修も、会社も、人も、きっと同じなのだと思います。

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