その困りごと、ベンダーに頼まなくても直せます。生成AIで小さく内製化し、データを貯めて現状をつかむ

社内には、「わざわざ相談するほどではないけれど、地味に困っている」という業務がいくつもあります。毎月の集計、フォーマットの違う書類の転記、バラバラに届く報告のまとめ。どれも一つひとつは小さく、ITベンダーに見積もりを依頼するには気が引ける規模です。

そして、その「小さすぎて誰にも頼めない困りごと」は、たいてい何年も放置されます。

この記事では、そうした身近な困りごとを、外注せずに自社で解決する進め方を整理します。あわせて、その仕組みを作ると自然にデータが貯まり、自社の現状が数字で見えるようになる、という話までつなげます。専門知識がなくても読み進められるよう、専門用語は最小限にしています。

「頼むほどではない」が積み重なっている

多くの会社で放置されているのは、次のような業務です。

  • 毎月、手作業で同じ集計をしている
  • 現場からの報告を、事務担当が一件ずつ表に打ち直している
  • 取引先ごとに書式が違う書類を、目視で確認している
  • 同じ内容の問い合わせに、毎回ゼロから返信を書いている

いずれも1回あたり15分程度かもしれません。ですが、月20回発生すれば年間で60時間です。人ひとりの1週間半が、静かに消えている計算になります。

それでも外注されないのは、理由がはっきりしています。

  • ベンダーに頼むと、要件をまとめる時間のほうが作業時間より長くなる
  • 見積もりが数十万円単位になり、費用対効果が合わない
  • 依頼から完成まで数か月かかり、その間に業務のやり方が変わってしまう

つまり、課題が小さすぎて、外注という手段と釣り合わないのです。だから残る。そして「まあ、慣れているから」という言葉で毎年更新されていきます。

内製化のハードルを下げたのが生成AI

これまで自社で作れなかった理由

「自分たちで作ればいい」という発想自体は、以前からありました。それができなかったのは、次の3つが壁になっていたからです。

  1. やりたいことを、システムの言葉に翻訳できない(要件定義ができない)
  2. プログラムが書けない
  3. バラバラな形式の情報を、機械が読める形にそろえられない

この3つは、いずれも専門職の仕事でした。だから外注するしかなかったわけです。

生成AIが肩代わりしてくれること

生成AIは、この3つの壁をかなりの部分で肩代わりします。

やりたいことを整理する相手になる
「毎月これを手作業でやっていて面倒なのですが、どう自動化できますか」と日本語で相談すれば、手順を分解し、必要な情報を逆質問してくれます。要件定義の下書きを、話しながら作れるということです。

簡単な処理を作ってくれる
表計算ソフトの関数、繰り返し作業を自動化する短いプログラム、書類のひな形。「こういうデータをこう変換したい」と伝えれば、動くものが出てきます。うまく動かなければ、エラーの文章をそのまま貼り付けて聞けば直してくれます。

バラバラな文章を、そろった項目に分けてくれる
ここが最も大きい変化です。従来は、データを取るために入力フォームを作り、現場に決まった形で入力してもらう必要がありました。生成AIは、自由に書かれた文章のまま受け取って、決めた項目に振り分けられます。

たとえば、現場から届いた次の一文があるとします。

「本日、A商事さんの現場。空調の点検と部品交換で、9時から15時まで。部品が1つ足りず、来週再訪問になりました。」

これを「日付・顧客名・作業内容・作業時間・再訪問の有無・理由の6項目に分けて表にして」と指示すれば、整った1行のデータになります。

現場のやり方を変えずに、データだけを整えられる。 これが、従来のシステム化との決定的な違いです。

たとえば、ある会社で考えてみます

考え方を具体的にするため、仮の例で考えます。実際の支援事例ではなく、あくまで想定です。

従業員30名ほどの設備工事会社があるとします。作業報告は紙の日報と社内チャットが混在し、月末に事務担当者が請求書を作りながら数を数えている状態です。以前ベンダーに相談したものの、提示された見積もりは日報システムの構築で数百万円。そのまま立ち消えになりました。

この会社が内製で始めるなら、順序はこうなります。

  1. 日報は今まで通り、チャットに文章で投稿してもらう(書き方は自由のまま)
  2. その文章を生成AIに渡し、決めた6項目に分けてもらう
  3. 出てきた結果を、表計算ソフトの1枚のシートに追記していく

必要なのは、生成AIの利用料と、担当者が月に数時間触る手間だけです。要件定義書も、開発期間も、稟議書の束もいりません。

そして3か月続けると、それまで感覚でしかなかったことが、比べられる数字に変わります。

  • 再訪問が発生した案件は、全体の何割か
  • 再訪問の理由で最も多いものは何か
  • 見積時に想定した作業時間と、実際の作業時間はどれくらいずれているか

もし「再訪問の理由の多くが部品の準備不足」だとわかれば、打ち手は「気を引き締める」ではなく「事前確認の手順を1つ増やす」という具体的な形になります。

ここで大事なのは、答えが出ることより、問いを立てられるようになることです。なお、この例は一般的な想定であり、業種や規模によって見るべき数字も結論も変わります。

内製するなら「データが貯まる形」にしておく

せっかく自分たちで仕組みを作るのであれば、最初に一つだけ意識してほしいことがあります。それは、処理した結果を必ずどこかに残しておくことです。

生成AIに毎回その場で処理させて、画面上で確認して終わりにしてしまうと、便利ではあるものの何も蓄積されません。出力を1枚のシートに追記していくだけで、それは自社だけのデータになります。

外注したシステムのデータは、たいてい相手のフォーマットの中にあります。自分たちで作った仕組みなら、項目も置き場所も自分たちで決められます。これは思っている以上に大きな違いです。

そして、1か月分のデータはあまり役に立ちません。価値が出るのは、前年同月と比べたり、拠点や担当者ごとに比べたりできるようになってからです。だからこそ、まず貯めることが先になります。

内製に向く仕事、ベンダーに頼むべき仕事

誤解のないように申し添えると、「すべて内製すべき」という話ではありません。線引きの目安は次の通りです。

内製に向くもの

  • 部署内で完結する集計や転記
  • 定型的な文章の作成、要約、分類
  • 既存の表計算ソフトの範囲で解決できること
  • 失敗しても業務が止まらないこと

ベンダーに任せたほうがよいもの

  • 会計、給与、受発注など、基幹となる仕組み
  • 顧客の個人情報や機密情報を大量に扱うもの
  • 複数システムの連携や、社外向けのサービス
  • 止まると事業が止まるもの

内製で小さく試すと、もう一つ利点があります。自社の業務を言葉で説明できるようになることです。これは、いずれ本格的なシステムを外注するときに、そのまま要件の土台になります。「よくわからないのでお任せします」と言わずに済む会社は、外注の成果も安定します。

明日から始める5つのステップ

  1. 困りごとを1つだけ選ぶ。「毎月手作業でやっていて、なくなったら嬉しいもの」を1つ挙げてください。小さいほど成功します。
  2. 今ある記録を使う。新しく書かせる前に、日報、チャット、メール、伝票など既存のものを流用できないか確認します。
  3. 生成AIに相談する。「この作業を楽にしたい」と日本語で説明し、手順の分解から一緒に考えてもらいます。
  4. 指示文を保存して使い回す。毎回書き方を変えると、出てくる項目がぶれて集計できなくなります。指示文をメモに残し、同じものを使ってください。
  5. 3か月続けて、月に1回だけ眺める。毎日見ても変化はわかりません。続けることのほうが重要です。

つまずきやすいところ

最初から完璧を目指さない

項目は、使ってみて初めて過不足がわかります。5項目程度で始め、必要になったら足していけば十分です。完璧な設計を目指して半年動けないより、粗くても3か月分のデータがあるほうが役に立ちます。

AIの出力は必ず人が確認する

生成AIは、事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあります(ハルシネーションと呼ばれます)。特に、数値の転記、金額、日付は要注意です。集計の元になる数値は、人の目で確認する習慣をつけてください。

「AIに任せる」と「AIに丸投げする」の差は、決算のときにはっきり姿を現します。

情報の取り扱いを先に決める

顧客の個人情報や機密情報を、どのサービスに、どこまで入力してよいのか。利用規約や、入力内容が学習に使われるかどうかの設定もあわせて確認してください。「入れてよい情報・入れてはいけない情報」を1枚にまとめておくだけで、事故はかなり防げます。

属人化させない

内製の弱点は、作った人だけがわかる状態になりやすいことです。指示文と手順を共有フォルダに置き、別の人が再現できる状態にしておいてください。作った本人が異動した瞬間に誰も触れなくなる仕組みは、外注したシステムより厄介です。

現場の負担を増やさない

新しい取り組みが失敗する最大の理由は、現場の作業が増えることです。現場の手間が今までと同じか、減る形で設計してください。手間が増える設計は、理屈が正しくても続きません。

まとめ

  • 社内には「外注するほどではないが、地味に困っている」業務が必ずある
  • 要件定義、簡単なプログラム、バラバラな情報の整理を生成AIが肩代わりするため、内製化のハードルは大きく下がった
  • 内製するときは、処理結果を1枚のシートに残す形にしておく
  • 貯まったデータで、感覚だった現状が「いつ・どこで・どれだけ」に変わる
  • 基幹業務や機密性の高い領域は、引き続き専門家に任せる判断が必要

まずは、社内で一番「面倒くさい」と言われている作業を1つ選んでみてください。それを自分たちの手で軽くできた経験は、次の一手を考えるときの土台になります。

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