なぜ全体最適にならず、個別最適になるのか― 公式が追いつかない現場で起きていること ―

「全体を見て、みんなが同じやり方で仕事をすればうまくいくはず」
これは、とても正しい考え方です。実際、多くの会社や組織が「全体最適」を目指して、ルールやツールを整えようとしています。

それにもかかわらず、現場では公式ではないやり方、いわゆる「裏の手順」や「非公式ツール」が増えていくことがあります。
なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。

今回は、全体最適を目指しているはずなのに、結果として個別最適が広がってしまう理由について考えてみます。

全体最適がうまく機能する条件

まず前提として、全体最適がうまく機能するためには条件があります。
それは「公式の仕組みが、現場で無理なく使えること」です。

公式ツールが分かりやすく、手順も現実的で、
「これを使ったほうが楽だよね」
と自然に思える状態であれば、ほとんどの人は公式のやり方を選びます。

逆に言えば、公式が不便なままでは、どれだけ「全体最適が大事だ」と言われても、現場は動きません。

公式が使いづらいと、工夫が生まれる

公式ツールが遅い、操作が複雑、手順が現場に合っていない。
こうした状況に置かれると、人は自然と工夫を始めます。

・毎回の手作業を減らしたい
・ミスを減らしたい
・少しでも早く仕事を終わらせたい

こうした動機から、個人や担当者単位で独自のツールややり方が生まれます。
これが、いわゆる「裏ツール」の始まりです。

多くの場合、悪意はありません。
むしろ「仕事をちゃんと回すため」の工夫です。

裏ツールが完成し、評価される

裏ツールができると、仕事は一気に楽になります。
周囲の担当者にも共有され、「これ便利だね」「助かるよ」と感謝されます。

ここで次に起きるのが、
「これを公式ツールとして使えませんか?」
「正式な手順にできませんか?」
という提案です。

現場としては、全体に広げたほうが良いと思っているからこその行動です。
この時点では、全体最適に向かおうとしています。

公式化の壁は想像以上に高い

ところが、ここで話が止まることがあります。
判断する側、つまり上司や承認者が、その内容を十分に理解できないのです。

・仕組みがよく分からない
・リスクがピンとこない
・「前例がない」という理由で止まる
・管理責任が伴うことを嫌う。

結果として、「よく分からないから却下」または「保留」のような判断が下されます。

判断する側に悪意があるとは限りません。
ただ、人は分からないものに責任を持つのが苦手です。
認めた結果、何か問題が起きたときに説明できないことを恐れます。

そのため、「変えない」という選択が安全に見えてしまいます。

なぜこのループから抜けられないのか

ここからが問題の本質です。
なぜ、
「裏ツールが生まれる → 公式化を試みる → 否定される → 地下化する → いずれ問題になる」
というループから抜けられないのでしょうか。

判断する側が理解できない構造

現場の工夫は、たいてい細かく、少し技術的です。
判断する立場の人がその詳細を理解できない場合、内容以前に「分からないもの」として扱われます。

分からないものは、承認しづらい。
結果として、改善案は内容ではなく「理解できない」という理由で止まります。

評価されるのは改善ではなく無事故

多くの組織では、仕組みを変えて良くした人よりも、
「何も問題を起こさなかった人」が評価されやすい傾向があります。

仕組みを変えることは、良くなる可能性と同時に失敗の可能性も含みます。
一方、現状維持は目立った失敗が起きにくい。

この評価構造が、判断を保守的にします。

一度否定されると、現場は学習する

現場側も学習します。
一度、真面目に説明して否定されると、

「言っても無駄」
「余計なことをすると面倒になる」

と感じるようになります。

これは怠けではありません。
仕事を進めるうえで、合理的な判断です。

個別最適のほうが即効性がある

公式化には時間がかかります。
会議、資料、承認、調整。気が付くと数か月経っていることも珍しくありません。

一方で、個別最適はすぐ効果が出ます。
今日作ったツールが、明日から役に立つ。
この即効性はとても魅力的です。

見えない最適化が増えていく

こうして、現場の工夫は公式から見えない場所に溜まっていきます。

担当者間では当たり前
引き継ぎ資料には書かれていない
公式ルールとは違う

そんな「暗黙のやり方」が増え続けます。

そして、担当者が変わったり、何か問題が起きたときに初めて表に出て、
「なぜそんなことをしているんだ」と叱られるのです。

個別最適は悪なのか

ここで誤解してほしくないのは、個別最適そのものが悪いわけではない、ということです。

公式が追いつかない状況で工夫が生まれるのは、むしろ健全な反応です。
問題なのは、それを拾い上げ、理解し、全体に活かす仕組みがないことです。

おわりに

裏ツールが横行している職場は、一見すると問題だらけに見えます。
しかし見方を変えれば、それは「改善のヒントが現場に埋まっている状態」でもあります。

全体最適を目指すのであれば、
まずは公式を押し付ける前に、
なぜ個別最適が生まれているのかに目を向ける必要があります。

全体最適は、現場の工夫を無理に消すことで実現するものではありません。
それを理解し、すくい上げ、安心して表に出せる環境を作ること。
そこからしか、本当の全体最適は始まらないのではないでしょうか。

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