「ITツールを導入したのに現場が使ってくれない」「結局これまでのやり方に戻ってしまった」
IT導入に関するこうした悩みは、企業規模や業種を問わず多く聞かれます。ITリテラシーの問題として語られることもありますが、実際には現場側に十分な理由があるケースがほとんどです。
本記事では、現場がITを拒否する本質的な理由と、受け入れられるIT導入の考え方について解説します。
現場にとって「変わらない」ことは合理的な選択である
現場がIT化に消極的なのは、単に変化を嫌っているからではありません。
多くの現場では、業務を止めないこと、ミスを出さないことが最優先で求められます。
新しいITを導入すれば、操作ミスや想定外のトラブルが起こる可能性があります。その影響を最初に受け、責任を問われるのは現場です。一方で、従来通りのやり方を続けても、大きな評価は得られなくても問題になることは少ない。この状況では、「変えない」ことが最も安全で合理的な判断になります。
IT化は、現場にとって成功が保証された変化ではありません。だからこそ慎重になるのです。
IT化=標準化が柔軟性を奪うという不安
IT化は、多くの場合業務の標準化を伴います。しかし現場の仕事は、マニュアル通りに進まない例外対応の連続です。
顧客ごとの特別対応、突発的なトラブル、経験に基づく判断。これらは現場の価値そのものです。
「この例外はどう処理すればいいのか。」
「システム上できないので、できませんとは言えない。どうしたらよいだろうか。」
こうした不安は非常に現実的です。柔軟に対応できなくなると感じれば、IT化に抵抗するのは自然な反応と言えるでしょう。
現場の実態を反映しないITは使われない
現場を十分に理解せずに設計されたITは、例外処理や細かな判断を切り捨てがちです。
その結果、「現場では使えない」「余計に手間が増えた」という評価が生まれます。
一度この印象が定着すると、ITそのものへの不信感につながり、使われなくなる悪循環に陥ります。
学習コストと失敗への恐れ
新しいITツールには学習が必要です。しかし現場は常に忙しく、「覚える時間がない」「間違えたらどうなるのか分からない」という不安を抱えています。
この心理的ハードルを無視したIT導入は、現場から距離を置かれてしまいます。
現場に受け入れられるIT導入の考え方
現場に定着するIT導入の鍵は、すべてを標準化しようとしないことです。
頻度が高く判断を必要としない業務はITで効率化し、例外対応や判断が必要な部分は人が担う。この役割分担を明確にします。
また、ITは現場を縛る仕組みではなく、判断を支える道具として設計することが重要です。例外処理を排除するのではなく、記録・共有できる形で残すことで、柔軟性と再現性の両立が可能になります。
さらに、小さく導入し、現場の声を反映しながら改善を続けることで、「使わされるIT」から「役に立つIT」へと変わっていきます。
変わらない現場を前提にIT化を考える
現場はITを拒否しているのではありません。
自分たちの現実を無視したITを拒否しているのです。
変わらない現場を否定するのではなく、その合理性を理解したうえで設計されたITこそが、業務を支え、成果につながるIT導入と言えるでしょう。

中小企業診断士/ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士。
確かな知識と実務経験を元に、役立つ情報を随時発信中。

